【本編3-1】弟からのお誘い

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 ――ごめん。名前と連絡先聞き忘れちゃった。いま手元に自分のスマホある? 番号言うから登録しておいて。XXXー……  さらりと用件を告げたのに続いて番号を諳んじられて、時任はポケットからスマホを取り出す。凛のスマホを肩で耳との間に挟みながら電話番号を入力。念のため読みあげると「それで大丈夫。あとで着信残して」という返事。  ――名前も教えて。フルネームで登録しているから。 「時任一心。漢数字の『一』に『心』で『いっしん』です」  ――ふうん。名前の中に濁点がないとなんか間抜けだよね。弱そう。  何かとんでもない因縁をつけられた気がして、時任は素早く言い返した。 「凛さんとお揃いです。佐伯凛さんにも濁点がありません。超可愛い名前」  ――ね、一心くん、気持ち悪い。ひとの姉に向かって気安く可愛いっていうのやめて欲しいんだけど。名前を呼ぶのもだめ。 「生憎、彼氏なので。彼氏が彼女に可愛いって言わないでどうするんですか。むしろ彼氏こそ言う権利ありまくりじゃないですか。弟が口を出す方がおかしくないですか!?」  これまた何かとんでもない低次元な会話をしてしまった気もする。  のせられている場合ではないのだが。  ――なんかむかつく。一心くん、なるべく早めに会ってみたいんだけど、都合つく日っていつ? 今日? まさか凛の部屋に泊まろうとしている? ちょっと外に出てこない?  なんだ、ちょっと外に出たらその辺にいそうなこと言ってるな、と思ってから再び悪寒に襲われてその考えを振り払った。本当に本当にその辺にいそうで怖い。
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