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それなりに大きな会社なのである。社長の息子ともなれば、どこかの一等地に構えた豪邸から悠々と通勤しているイメージだったのだが、良い意味で裏切られてしまった。
入口はオートロックだったが、階段は野ざらしでさほどセキュリティが固そうでもない。エレベーターもあったが、「三階ですけど、階段の方がいいです?」と聞かれて思わず「それで」と頷いてしまった。
(狭いエレベーターで二人きりになるのは、っていう配慮だよね)
そこまで気が付くものなんだな、と感心しながら後に続いて階段を上っていたが、部屋の前についてふと思う。
……彼氏でもない一人暮らしの男性の家に、上がりこんで大丈夫なのかな?
ここで何かあっても「同意の上」になるよなという思いが頭をかすめる。
(私のような年上に手を出しても面白くもないと思うんだけど)
まさか監禁されたり殺されたりもないだろうし。
そこまで考えてから、先に入って振り返って「どうぞ」と言ってきた時任に一応確認してみた。
「監禁したり殺したりしないですよね?」
考えていたことがそのまま口から出てしまった。
出てしまったものは仕方ない。
* * *
シャワーを使って髪を乾かす間に、洗濯機を回して服は乾燥までさせますけど、と玄関口で時任には大変丁寧な説明を受けた。
その上で、大変紳士的な礼儀正しさをもって提案されてしまった。
「終わるまで、俺どこかに出かけていましょうか?」
と、真面目くさった顔で。
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