【本編1-2】戦略的ダメ男

4/8

524人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
 それなりに大きな会社なのである。社長の息子ともなれば、どこかの一等地に構えた豪邸から悠々と通勤しているイメージだったのだが、良い意味で裏切られてしまった。  入口はオートロックだったが、階段は野ざらしでさほどセキュリティが固そうでもない。エレベーターもあったが、「三階ですけど、階段の方がいいです?」と聞かれて思わず「それで」と頷いてしまった。 (狭いエレベーターで二人きりになるのは、っていう配慮だよね)  そこまで気が付くものなんだな、と感心しながら後に続いて階段を上っていたが、部屋の前についてふと思う。  ……彼氏でもない一人暮らしの男性の家に、上がりこんで大丈夫なのかな?  ここで何かあっても「同意の上」になるよなという思いが頭をかすめる。 (私のような年上に手を出しても面白くもないと思うんだけど)  まさか監禁されたり殺されたりもないだろうし。  そこまで考えてから、先に入って振り返って「どうぞ」と言ってきた時任に一応確認してみた。 「監禁したり殺したりしないですよね?」  考えていたことがそのまま口から出てしまった。  出てしまったものは仕方ない。  * * *  シャワーを使って髪を乾かす間に、洗濯機を回して服は乾燥までさせますけど、と玄関口で時任には大変丁寧な説明を受けた。  その上で、大変紳士的な礼儀正しさをもって提案されてしまった。 「終わるまで、俺どこかに出かけていましょうか?」  と、真面目くさった顔で。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

524人が本棚に入れています
本棚に追加