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【本編1-1】足りない既読
傘はあまり意味を成していなかった。
地下鉄を出てから待ち合わせの駅までは徒歩での移動になり、その間に容赦ない横殴りの雨に降られて、シャツもジーンズもぐっしょりと濡れそぼってしまった。
そもそも、朝から雨は一向に弱まっていない。風が強くなってきたせいで、歩いているだけでも息が詰まるほどだ。
目指す駅舎は、街のど真ん中で川沿いという立地のせいもあってか、用件のみというそっけなさで改札がほとんど剥き出しになっている。
足早に通り過ぎていく人々。
横断歩道を渡って庇の下に走り込みながら辺りを見回すが、数人固まって立ち止まっている一団などいない。
はあ……と息を吐き出して、傘をたたみ、頬にはりついてきた髪を指ではがした。
(この天気だもん、バーベキューなんか中止だよね)
駅で待ち合わせ、電車で移動してから買い出しをし、川原でバーベキュー。
社内交流を目的としたレクリエーションという名の休日の浪費。
部署ごとだと暗黙の了解で流れてしまうこともあるせいか、今回は各部署二名くらいずつで他部署とのミックス、本当に社内交流を目的としているようだった。
自分は乗り気ではなかったが、この組には「御曹司」が組み込まれていたこともあり、女性社員たちが色めきたっていたのは知っている。部署が違えば話す機会もなかなかないので、ここぞとばかりに……。
――佐伯さん。うちの組と変わってください。体育館を借りて卓球ですよ?
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