僕がネカフェで、彼女な理由(わけ)

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 ここに来て彼女の顔を見ると、いつも思い出す。  それは、僕が書いた原稿を投稿しようかどうか迷っていた時だった。  場所はいつも通り、ここのネットカフェ。  書き上げた時は自分の文章に感動して、僕って天才かもと思ったのに、  いざ投稿しようと誤字脱字の確認に一度読み返してみると、駄作に思えて来  たのだ。  そして、それをコンテストに送ろうとしていた自分が急に恥ずかしくなり、  間の悪いことに、他の作家さんの凄い作品を見つけてしまった。  それが追い打ちとなって、真剣に作家生活を辞めようかどうかと考えてた。  そんな時だった。 「お前はそうやって、いつもワガママばっか言いやがってっ!」 「それを含めて付き合ってんでしょっ! いやなら、別れればいいで  しょっ!」  男女が罵り合う、怒鳴り声が聞こえてきた。  僕はその声にビビって、すっかり自分の迷いだとか、葛藤かとかが頭から  吹っ飛んでしまった。  たぶん、周りで視ていた人も大体がそう。  で、その二人のあまりの剣幕に、間に入るべき、店長と思われる人は、オロ  オロと狼狽えることしか出来ていなかった。 「お客様…………」  そこに彼女が割って入った。    正直、その時の事はあまりにも衝撃的過ぎて、細部の事は全然覚えてない。  たぶん最初、彼女はお客様と何度か声を掛けていた、と思う。  でも、全く衰えない二人の剣幕に痺れを切らして、  あろうことか、怒鳴り返した。  で、何か説教みたいなのを言ったんだと思う。  それを見て、単純にすごいと思った。僕が心を奪われた瞬間だ。  そして、何より彼女がすごいのは、その後、そのカップルの二人と彼女は仲  良くなっていたこと。  カッケーと思った。  その場にいない奴とか、そこにいても自分は止める勇気も、割って入る度胸  もない癖に、したり顔で正論をいうのは誰だって出来る。  現に周りにはそんな情けない人達が何人かいたし。  上手くネットにあげれば、ネタとしてバズらせることも出来るだろう。  でも彼女は違った。  だから僕は彼女を好きになった、多分ファンになったんだと思う。  きっと心を動かすってそういう事だ。  誰かの為に行動できること。  あの時、彼女が正義感とか、そういうので動いたのかは知らない。  単に腹が立ったとか、そういうのかも知れない。  だけど、少なくても僕には彼女のように誰かの盾になったり、喧嘩の仲裁  にっていうのは出来ない。  だから、彼女が好きで尊敬しているのだ。  自分の得にならない事の為に行動できる人は少ない。  そんな彼女が、ポテトにはケチャップしか使わない僕に、時々マヨネーズし  か持ってこないとかは小さなことだ。  毎回、注文する時に、ちゃんとマヨネーズはいりませんと書いて送ってる筈  だけど、きっとたまたま僕の時にはケチャップが切れて無くなったとか、注  文票が文字化けして読めなかったとか、そんなところだろう。  この気持ちが単純な恋愛かは僕にはわからない。  でも彼女が好きだ。大好きだ。  だから、今日も書くのだ。物語を。  心の弱い僕は直ぐに挫けるし、描けなくなる。  そんな時、ここのネットカフェに来るのだ。  彼女のいる。この場所に。
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