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――彼が写真撮影をしてくれたのは、わたしの家のすぐ近くまで来てからだった。 なるべく顔は入らないカットで撮ってほしい、というわたしの希望も叶えてくれて、すごくいいショットを撮ってくれた。――後から知った話だけれど、写真を撮ることも彼の趣味のひとつなのだそう。
「――貢、今日すごく楽しかったわ。付き合ってくれてありがとね。あと、プレゼントもありがと。貴方のおかげで最高の誕生日になったわ」
家のゲート前で車が止まると、わたしは降りる前に彼にお礼を言った。
「いえ、僕もあなたと一緒にあちこち回れて楽しかったです。お礼を申し上げるのは僕の方ですよ、絢乃さん」
……貢ってば、また謙遜してる。――わたしは苦笑いした。でも、彼がわたしとの初デートを心から楽しんでくれたことが分かって嬉しかった。
「明日、気をつけて行ってきて下さいね。明後日のお迎えは……、終業式の日と同じ時間でよろしいですか?」
「うん、大丈夫。お願いします。じゃあ、また明日連絡するね」
「はい。では、連絡お待ちしてます」
う~ん、なんか堅苦しいし事務的な別れ方。これじゃ、会社帰りと変わらないしあんまりデートらしくない! もうちょっとカップルらしい別れ方っていうのがあるんじゃない?
彼ともっと距離を縮めたいと思い立ったわたしは、シートベルトを外すと運転席の方まで乗り出して自分から彼にキスをした。
「………ぅえっ!? ああ絢乃さん、何をっ」
「うふふっ♡ こないだのお返しよ」
慌てふためく彼に、わたしは不敵に笑ってこう返した。 あの時、彼だって不意討ちを仕掛けてきたのだから、わたしにだって同じことをする権利はあったはずでしょう?
「~~~~~~~~っ!」
「じゃあ、今日はこのまま自分で降りるね。仕事じゃないんだし、見送りいらないから。バイバ~イ♪」
茹でダコみたいに真赤な顔になっている貢をよそに、わたしはクスクス笑いながら自分で助手席のドアを開けて車外へ出た。
彼との初デートでわたしが得たものは、シンプルだけど可愛いネックレスとキレイな桜の風景と、彼が上手く撮ってくれたスマホ写真と、優しい彼と過ごせた楽しい時間だった。
わたしはこの時点ですでに、彼との結婚というものをぼんやりと思い浮かべ始めていた。だからこれからもずっと、こんな素敵な時間を彼と二人で積み重ねていけたらいいな。わたしはそう思っていたのに……。
* * * *
――それから一ヶ月が過ぎ、G.W.の終盤。わたしは貢の愛車で、豊洲にある大型商業施設に来ていた。
目的は四月に交わした約束どおり、彼への誕生日プレゼント選びとカレーの材料やケーキ購入のためだ。
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