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「――靴も腕時計も、いいものが買えてよかったですね。ありがとうございます、絢乃さん」
彼はすごく嬉しそうな様子で声を弾ませてわたしにお礼を言い、休憩場所に立ち寄ったカフェで美味しそうにアイスコーヒーをすすっていた。
実は彼が女性のものを選ぶセンスに自信がなかったように、わたしも若い男性へのプレゼントを選ぶのは初めてだったので(父へのプレゼントなら選んだことはあったけれど)、自分のセンスにあまり自信がなかったのだ。だから、彼に喜んでもらえてホッとしていた。
「本当にいいものすぎて、僕にはもったいない気もしますけど……。あんなに高価なもの」
「そんなに遠慮しないでよ。わたしの秘書なんだから、あれくらい上質なものを身に着けてもバチは当たらないのよ。わたしの気持ちだから、堂々と受け取っておいて」
わたしも謙虚すぎる彼に苦笑いしながら、アイスラテをストローで飲んだ。
ちなみに、彼が恐縮していたのにはもう一つ理由があった。わたしがこの日の支払いをすべて自分名義のブラックカードで行っていたからだ。
「それにしても、絢乃さんがクレジットカードを作られたことはお聞きしましたけど、まさかそれがブラックカードだったとは……。本当にビックリしましたよ」
「ゴメンね、驚かせちゃって。申し込みの時、わたしは普通のカードでいいと思ったのよ。よくてゴールドかな、くらいだったんだけど。クレジット会社の人が、『お嬢さんの収入でしたらブラックも申請できますよー』って猛プッシュするもんだから、ママまでホイホイ乗せられちゃって」
母はけっこうおだてに乗りやすいタイプの人なので、娘のわたしも時々手を焼いているのだ。そういうわたし自身も、そういうところは母に似ていないこともない……かも。
「そうだったんですか。あれ? 確かブラックカードって、月会費だったか年会費だったかが三十万くらいかかるんじゃありませんでしたっけ? ……ああ、絢乃さんの収入なら問題ないか」
「そうなのよー。女子高生の身分でカードの会費それだけ取られるってどうなの、って思わない? ホンっっト、ママには困ったもんだわ」
わたしはあっけらかんと肩をすくめただけだったけれど、貢はこの話だけでかなり落ち込んでいた。
「………どしたの貢? 元気ないじゃない」
「………………いえ、別に何でもないです」
彼がヘコんだ理由を、わたしは後に知ることとなる。――彼は三十万円というカードの会費を何の問題もなく払えてしまうわたしと自分との間に、大きな経済格差を感じていたのだと。
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