二人の間を隔てるものは……

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「――ねえ貢、最近なんかよそよそしくない?」  イチゴアイスがちょうどなくなったタイミングで、わたしの方から本題を切り出した。 「は? そうですかね?」 「うん。自分で気づいてないの? 付き合い始めてそろそろ三ヶ月になるのに、わたしになかなか手を出そうとしないし。今日なんか、モロにわたしとの会話を拒んでるよね。それに、わたしが結婚の話題を出そうとするとわざわざ話を逸らそうとするし」 「それは……」  この時、彼は初めてまともにわたしと目を合わせた。痛いところを衝かれたと思ったのかもしれない。 「ねえ、わたしってそんなに色気ないの? それとも、昔好きだった女性からひどい目に遭わされたことと何か関係ある?」 「どうしてそれを……? 兄からお聞きになったんですね」  その返事を、わたしは肯定と捉えた。 「絢乃さん、あなたに魅力がないなんてことあるわけないじゃないですか。…………分りました。二人きりですから、正直に打ち明けます」  彼は諦めの境地だったのか、それとも腹を括ったのか、ぽつりぽつりと自分の過去の恋愛話を始めた。  でも、この時のわたしは彼に対してなんて残酷だったのだろうと今では思う。 「………絢乃さんと出会う少し前まで、僕には結婚を考えてもいいくらい好きな女性がいたんです。彼女は同い年で、同期入社だったんですけど」  ……あれ? 彼は確か、四~五年くらい前まで〝おひとりさま〟だと言っていなかったっけ? とわたしは疑問に思ったけれど、彼女とは交際していたわけではなく彼の片想いだったらしい。 「彼女とはすごく気が合って、彼女の方も僕のことを嫌ってはいなかったみたいで。でも、告白したらそれまでの良好な関係が壊れてしまいそうな気がして、一年くらいはあくまで仲のいい同期として接していたんですが……」 「うん」 「やっぱりこのままじゃいけないなと思って、昨年の夏に思いきって彼女に告白したんです。そしたら彼女、『他の人との結婚が決まったからごめんなさい』って。その後すぐに寿退社されちゃいました」 「……………………」  悲しそうにそう話す彼に、わたしは何と言ってあげればいいか分からなかった。 「僕、彼女も僕に気があるんじゃないかって思い込んでたんですよね。思わせぶりな態度ばかり取られていたんで。それが、まんまと裏切られたわけです。……バカみたいでしょ、僕。勝手に期待して、勝手に裏切られたと思ってるなんて」 「…………そんなことない。少なくともわたしはそう思わないよ」  ――彼はもしかしたら、女性不信なのかしれないとわたしは思った。だとしたら……。 「貴方は……、わたしのことも信用してくれてないの?」  この問いの裏には、「そうであってほしくない」というわたしの希望が込められていた。だって、この頃ですでに出会って半年以上。少なくとも、ボスと秘書としては十分な信頼関係が築けていると信じていたから。 「いえ、絢乃さんのことは信用していないわけではないんです。ただ……何て言うんですかね、『また好きな女性に裏切られてしまうんじゃないか』というトラウマに囚われてしまって。また傷付くのが怖いんです」 「だから、わたしとの関係も先に進めない……ううん、進めたくないってこと?」 「そういうことに……なりますね」
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