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「だと思いますよ。本当の気持ちは桐島くん本人に確かめないと何とも言えませんけどね」
小川さんはそう答えて肩をすくめた。
「だったら、彼とじっくり話してみたらいいんじゃない?」
「……え?」
戸惑うわたしに、母が一通の封筒を差し出した。ちょっと高級そうな紙質の洋封筒。
「これ、絢乃宛てに来てたのよ。先に中を確かめさせてもらったけど、東京中の経営者が集まる交流会の招待状みたいね」
「ちょっとママ、わたし宛ての郵便、勝手に開けたの!?」
「まあまあ、そういう細かいことは気にしないの! 親子なんだからいいじゃない」
母の常識外れな行動を咎めたら、思いっきり軽くあしらわれた。
「それはともかく、このパーティーは同伴者を連れて行ってもいいみたいだから、彼を引っぱって行ったらどう?」
「…………」
母の提案に、わたしは返事をためらった。
これを「業務命令だ」と言えば、立派なパワハラに該当するかもしれない。彼に無理強いはできないし、したくもなかった。けれど――。
「まあ、まだ日にちはあるみたいだし、あとはあなたたち二人でじっくり話し合って決めなさい。――じゃあ、寺田が駐車場で待ってるからママは帰るわね。小川さん、あとはよろしく」
「はい、かしこまりました。お疲れさまでした」
「あ、うん。ママ、お疲れさま」
――母が帰ってから、わたしは母から手渡された開封済みの封筒の中身を改めた。
そこに入っていたのは二つ折りにされた真っ白なカードで、丁寧な挨拶文の下にパーティーの日時と場所、ドレスコードなどがパソコン書きされていた。会場は、都内有数のシティホテルのバンケットルームだった。
「――小川さん、貴女も大変ね。社長秘書のお仕事もあるでしょうに、ピンチヒッターなんて。桐島さんに代わってお詫びするわ」
招待状から顔を上げ、わたしは貢の代わりに秘書席に着いていた彼女に声をかけた。
「いえいえ! 私なら大丈夫ですから。ああでも、社長からお呼びがかかったらちょっとだけ抜けさせて頂きますけど」
「了解。その時はわたしに遠慮しないで行ってきて。わたしはひとりでも大丈夫だから」
「はい。――あ、コーヒー淹れてきましょうか? 桐島くんほどうまくないかもしれませんけど」
「うん、ありがと。お願いします」
貢が普段そうしているように、彼女も例の通路から給湯室へと消えていった。
――しばらく一人になったわたしは、彼に電話してみようと思い立った。
他社さんの見学に行っていたので繋がるかどうか分からないし、まだ見学中かもしれないと思いつつも、わたしからの電話なら出てくれるだろうという期待もあった。
『――はい、桐島です。会長、どうされました?』
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