雨降れば……

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「――三十七度二分……、だいぶ下がった」  昼食に史子さんが用意してくれた玉子粥とフルーツヨーグルトを食べ、市販の解熱剤を飲んで寝ること数時間。夕方四時ごろに体温を測り直したわたしは少しホッとした。朝の段階では三十八度以上あったので、一度下がるだけでだいぶ楽になっていた。  まだフラフラしながらベッドの上に起き上がり、スマホを確かめると彼からの電話もメッセージも一件も入っていなかった。 「…………まぁ、仕方ないか。わたしの方から『距離を置こう』って言ったんだもんね」  それなのに、連絡が一件も入っていないだけで心にポッカリ穴が空いたように感じるなんて、わたしって何て勝手なんだろう。  ……と、電話が鳴り出した。わたしは惰性で番号も確かめずに応答ボタンをタップした。 「――はい、篠沢です」 『あ、絢乃ちゃん! オレオレ。分かる?』 「…………はい?」  何だか〝オレオレ詐欺〟みたいな電話だなと思い、眉をひそめたけれど、その声には聞き憶えがあった。 「もしかして……悠さん!?」  『大正解♪ っていうか絢乃ちゃん、オレの番号登録してあったよな? もしかして画面ちゃんと確認しないで出た?』 「はい。実は朝から高熱出して寝込んでて……、今もまだちょっと頭がボーッとしてるんです」  後藤先生から〝知恵熱〟と診断されたことを話すと、悠さんは「子供かよ」と笑っていた。 『なんか具合悪い時に電話ししまってゴメンな? ――実はさ、貢が昨日から実家に帰って来てんだけど様子おかしくて。オレ、アイツに八つ当たりされまくってるワケよ。んで、アイツは言いたがらんけどもしかしたら絢乃ちゃん絡みかなーって』  彼の話し方から、これは貢の耳に入れたくない話のようだとわたしは気づいた。 「実はそうなんですけど……。あの、貢さんは今お家にいますか?」 『うんにゃ、今出かけてる』 「そうですか……。――実は昨夜、貢さんとちょっとあって、わたしから『しばらく距離を置こう』って言ったんです。そしたら、あれから何の連絡も来なくなって。もしかしたら、まだそのこと引きずってるのかも」  言い出しっぺのわたしですらあの後大泣きして、挙げ句知恵熱で寝込む羽目になってしまったのだ。言われた方の貢はもっとつらかったに違いない。 『ガキかよ、アイツは』  長い溜めの後、悠さんはそう吐き捨てた。 「ホントはもっと詳しい話もしたいんですけど、電話じゃちょっと長くなりそうなので……」 『そうだよなぁ、オレがこれから見舞いに行くっつうのも家の人に迷惑かかるだろうしな』
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