雨降れば……

16/19
前へ
/204ページ
次へ
 ――そして放課後。 「絢乃、もう帰るの?」  終礼が終わると同時に席を立ったわたしに、里歩が訊ねた。 「うん。ちょっと人と会う約束があって急いでるから。じゃあまた明日ね!」  その後、彼女と唯ちゃんとの間に一体どんな憶測が飛び交っていたのか。わたしは今も知らない。 「――悠さん、遅くなってごめんなさい!」  精一杯急いで四十数分後、わたしは悠さんが待っていたJR新宿駅の東口に着いた。 「いやいや、オレもちょっと前に研修会終わって来たばっかだから」  悠さんは穏やかな表情でそう言って、近くにある分煙式のカフェで話そうとわたしを促した。 「――へぇ……、絢乃ちゃんとアイツがそんなことになってたとはねぇ」  わたしの話を最後まで聞いた悠さんは、タバコの煙を吐き出しながらそうコメントした。  セルフ式のこのお店で彼が注文したのはブラックコーヒー。そういえば、オフィスを訪ねて来られた時にもブラックを飲んでいた。 「はい。わたし、今思えば自分のことしか考えてなかったんだなぁって。彼を追い詰めてたなんて、一昨日までは考えてもみませんでした」  そう言ってから、わたしは少し冷めたカフェラテをすすった。 「んでも、絢乃ちゃんは『少し距離を置こう』って言っただけなんだろ? それをあのバカタレは、キミに愛想尽かされたと解釈したワケだ」 「そう…………みたいですね」  わたしは悠さんの辛辣な意見に唖然となった。このご兄弟は仲がいいはずなので、悠さんがここまで辛口になるということは相当頭の痛い問題だったということだろうか。 「……でも、わたしって勝手なんですよね。彼に自分からそう言ったのに、彼から連絡が来ないだけで淋しくなっちゃって。二日会えなかっただけで、心にポッカリ穴が空いたみたいになっちゃってるんです。やっぱりわたしは、貢さんがいないとダメなんです」  前日、熱に浮かされながら「あんなこと言うんじゃなかった」と激しく後悔したのだと、わたしは悠さんに打ち明けた。  離れてみて分かったことは、やっぱりわたしには彼が必要なのだということ。もう、彼はわたしにとってかけがえのない存在となっていたのだ。 「うん、分かった。それだけ絢乃ちゃんは、アイツのこと本気で好きだってことだよな。アイツだってきっとそうだよ。オレには言わないけど、兄弟だから言わなくても分かる。絢乃ちゃんを好きだって、大事だって思ってるのバレバレだもんな、アイツ」  悠さんはそこで、ご自分のスマホを取り出した。電話機能を起動して、通話履歴からある番号を選び、発信した。 「……悠さん、誰に電話してるんですか?」 「貢のケータイ。さっきオレに言ったこと、アイツにもチョクで言ってやんな」
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

249人が本棚に入れています
本棚に追加