249人が本棚に入れています
本棚に追加
「――そういえば、衣装選びの時は大変だったよね。わたしのドレスはすんなり決まったのに、貢の衣装がなかなか決まんなくて。『黒のタキシードは着たくないから』って、式場の人を困らせて」
「…………まだ言いますか、それ」
わたしが笑いながら話すと、彼は子供みたいに膨れっ面をした。
「貴方の気持ちは分かるよ。黒は死者を悼む色だから、おめでたい席では着たくないって。でも、わたしは見てみたかったなぁ。黒もきっとステキだったと思うよ。もちろん、その白いタキシードも決まってるけど」
「そうですか? じゃあ、それはまたの機会にということで」
貢は少し機嫌を直したようで、わたしのウェディングドレス姿をまじまじと眺めていた。
「そのドレス、絢乃さんによくお似合いです。ベアトップにして正解でしたね。絢乃さんはデコルテがキレイなんで」
「やめてよもう、そんなあからさまに言わないで。わたしたち、そういう関係になってまだそんなに経ってないんだから」
ちょっと生々しいコメントに、わたしの頬がかぁっと熱くなった。
彼はG.W.明けから我が家で同居している。一緒に住むようになってからは二人一緒の寝室になり、当然ながら行為に及ぶ夜もある。でも、二人ともまだその状況には慣れていなくて、まだちょっと恥じらいもあったりなんかして。
「そう……ですよね。すみません」
彼が真面目くさって縮こまったので、わたしはまた笑った。
「ねえ貢、そのブルーのタイはもしかして、〝サムシング・ブルー〟になぞらえてるの? でもあれって、花嫁側の慣わしなんじゃ……」
わたしは衣装選びの時から、彼がやたらブルーのタイに拘っていたことを不思議に思っていた。
花嫁であるわたしも、イヤリングや髪飾りにブルーをさりげなく取り入れているのだけれど。
「普通はそうなんでしょうね。でも、僕たちの場合は立場が逆なんで。僕がブルーを身に着けるべきなのかな、と」
「う~ん……、まあ貴方がそうしたいって言うならいいんじゃない?」
別に花婿がブルーを身に着けちゃいけないという決まりもなし、似合っているならいいかとわたしは納得することにした。
「――で、最終確認なんですけど。絢乃さん、本っっ当に僕でいいんですね? 僕と結婚して後悔しませんよね?」
「まだ言うか、それ。もういい加減クドいよ、貢」
プロポーズをしたのは彼の方だというのに、婚約してからもずっとこんなことを言い続けているので、わたしもいい加減ウンザリしてきていた。
「わたしには貴方しかいません。貴方以外にいい人も絶対に現れません。分かった?」
「…………はい」
小さい子供に言い聞かせるみたいにそう言うと、彼は叱られた子供みたいにシュンとなった。
「わたしね、結婚っていうのは永遠に続く恋愛だと思ってるの。この先子供ができても、お互いに年を重ねていってもずっと変わらずにお互いを好きでいられる、そんな夫婦になっていこうね」
「はい!」
最初のコメントを投稿しよう!