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「先輩の気持ちには、僕も何となく気づいてましたけど。前田さんともいい感じだったんで、収まるところに収まったって感じですかね。僕たちの次はあの二人かなぁ」
「分かんないよ? ママが先に再婚するかもね。里歩と唯ちゃんはまだ早そうだし」
幸せはどんどん続いていった方がいい。そのお裾分けのために、今日はブーケトスを行うのだから。
今日の結婚式は大ゲサな式にしたくなかったので、招待客もあまり多くはない。限られた人数の社員や役員、里歩と唯ちゃん、桐島家の親族、アメリカに住んでいる父方の親族、そして篠沢家のメンバーはごく一部だけ。
当然ながら〈兼孝派〉の人たちは招待していない。こんなおめでたい席を引っかき回されて台無しにされたらたまったもんじゃないから。
「――絢乃さん。ふつつかな婿ですが、これからもよろしくお願いします」
「〝ふつつかな婿〟って……。うん、こちらこそよろしくね」
真面目な顔で改まった挨拶をした彼に、わたしはちょっと呆れつつも軽く頭を下げた。
「――新郎様、お写真撮影の準備ができております。先にフォトスタジオまでお越しください!」
新婦の控室からなかなか出てこない新郎を、式場スタッフの女性が廊下から呼んでいる。わたしはこの後、写真撮影のためにヘアメイクを少し手直ししてもらわないといけないのだ。
「はい、今行きます! ――それじゃ、僕は先にスタジオへ行ってますんで、失礼します」
「うん。長いおしゃべりに付き合ってもらっちゃってゴメンね。ありがと。じゃあまた後でね」
彼と入れ違いに、母がヘアメイク担当の女性スタッフさんと一緒に控室に入ってきた。
母は留袖ではなく、淡いパープルのフォーマルなパンツスーツ。父の代わりに、バージンロードでわたしをエスコートしてくれることになっている。
「――絢乃、とってもキレイよ。結婚おめでとう。パパもきっと天国で喜んでるわ」
手直しが完了したわたしに、母が言葉をかけてくれた。
「ありがと。わたしもそう思うよ、ママ」
「それじゃ、行きましょう。あなたの愛する貢くんが待ってるわよ」
「うん!」
わたしは母とともに、介添人の女性の案内でフォトスタジオへ向かう廊下をゆっくりと進んでいく。最愛の人、貢の元へと。
その途中、わたしは心の中で父に話しかけた。
――パパ、見てくれてますか? 貢はパパとの約束を守ってくれたよ。
わたし、彼となら幸せになれると思う。ううん! 絶対に幸せになるから!
だからね、パパ。わたしは彼と一緒に、これからの人生を歩んでいくよ。
パパがわたしを託してくれて、わたしが初めての恋をささげたあの人と――。
E N D
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