プロローグ ~回想~

3/3
前へ
/204ページ
次へ
「――絢乃さん、今幸せですか?」  「うん」 「ホントに(ぼく)でいいんですか?」 「うん」  自信なさげに質問を連投してくる彼に、わたしは力強く(うなず)いて見せる。  だって彼は、自分から「お婿さんにしてほしい」と言ってくれた人なんだもの。 「わたしは、貴方と一緒じゃないと幸せになれないから。それに、天国のパパも他の人を認めてくれないと思うの」  十九歳で結婚なんて早すぎるかな……と思ったけれど。父が生前、彼のことを気に入ってくれていたからこそ、わたしは彼との結婚を(ちゅう)(ちょ)しなかったのだ。 「そうですね。お義父(とう)さまもきっと今ごろ、天国でお喜びになっているでしょう」 「うん。きっとそうね」  彼の言葉が(うれ)しくて、わたしも同意した。  ――彼はふと、鏡の前の台に置かれたブーケに視線を移した。 「このブーケって、プリザーブドフラワーでできてるんでしたっけ」 「そうよ。半永久的に枯れないお花。わたしたちの関係も、そうなれたらいいなあと思って」  結婚式のブーケをオーダーした時、生花(せいか)を選ぶこともできたのだけれど、わたしはこちらを選んだ。  予定では式の後、ブーケトスで幸せのお裾分けをすることになっている。半永久的に枯れないこのブーケは、受け取った人の幸せを枯らすこともないだろうと思う。  今日は幸い、この晴天だ。間違いなくブーケトスは行われるだろう。 「――それにしても、あの日はホントに大変だったよね」  わたしは再び、出会た夜の話題に引き戻した。 「えっ? ……ああ、僕と絢乃さんが出会ったあの夜のことですね」 「そう、あの夜」  わたしは頷く。二人のなれそめを語る時、あの夜の出来事を切り離すことはできない。  まだお互いのことをほとんど何も知らず、わたしと彼は出会ったのだ。組織のトップの令嬢(むすめ)と、父親が所有するグループ会社に(つと)めるイチ社員として。  ――二人の出会いは、今から二十ヶ月前。二年前の十月(なか)ばまで(さかのぼ)る――。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

254人が本棚に入れています
本棚に追加