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「――絢乃さん、今幸せですか?」
「うん」
「ホントに僕でいいんですか?」
「うん」
自信なさげに質問を連投してくる彼に、わたしは力強く頷いて見せる。
だって彼は、自分から「お婿さんにしてほしい」と言ってくれた人なんだもの。
「わたしは、貴方と一緒じゃないと幸せになれないから。それに、天国のパパも他の人を認めてくれないと思うの」
十九歳で結婚なんて早すぎるかな……と思ったけれど。父が生前、彼のことを気に入ってくれていたからこそ、わたしは彼との結婚を躊躇しなかったのだ。
「そうですね。お義父さまもきっと今ごろ、天国でお喜びになっているでしょう」
「うん。きっとそうね」
彼の言葉が嬉しくて、わたしも同意した。
――彼はふと、鏡の前の台に置かれたブーケに視線を移した。
「このブーケって、プリザーブドフラワーでできてるんでしたっけ」
「そうよ。半永久的に枯れないお花。わたしたちの関係も、そうなれたらいいなあと思って」
結婚式のブーケをオーダーした時、生花を選ぶこともできたのだけれど、わたしはこちらを選んだ。
予定では式の後、ブーケトスで幸せのお裾分けをすることになっている。半永久的に枯れないこのブーケは、受け取った人の幸せを枯らすこともないだろうと思う。
今日は幸い、この晴天だ。間違いなくブーケトスは行われるだろう。
「――それにしても、あの日はホントに大変だったよね」
わたしは再び、出会た夜の話題に引き戻した。
「えっ? ……ああ、僕と絢乃さんが出会ったあの夜のことですね」
「そう、あの夜」
わたしは頷く。二人のなれそめを語る時、あの夜の出来事を切り離すことはできない。
まだお互いのことをほとんど何も知らず、わたしと彼は出会ったのだ。組織のトップの令嬢と、父親が所有するグループ会社に勤めるイチ社員として。
――二人の出会いは、今から二十ヶ月前。二年前の十月半ばまで遡る――。
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