赤ずきんちゃん、狼と結婚する。

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赤ずきんちゃん、狼と結婚する。

「絶対にダメよ!」  おばあさんは、声を張り上げました。可愛い可愛い、孫娘の赤ずきんちゃん。彼女が自分のところにワインを届けてくれたその日。彼女はおばあさんからすれば、頭がおかしくなったとしか思えないようなとんでもないことを言いだしたからです。  赤ずきんちゃんは、十二歳。まだまだ子供です。それなのに、突然結婚をすると言い出したのです。しかも。 「あなたはまだ子供なのよ。それなのに、結婚ってどういうつもり?しかも相手があの狼だなんて、頭がおかしくなってしまったとしか思えないわ」  おばあさんは、本気で赤ずきんちゃんのことを心配しました。自分が知っている赤ずきんちゃんは、森の奥に一人で住んでいるおばあさんに、毎週パンとワインを届けてくれるような優しい女の子です。明るくて元気、外で遊ぶのが大好き、それでも学校ではきちんと勉強をして、お父さんとお母さんを喜ばせていることも知っています。  そんなよくできた孫娘が、一体何をどう間違ったら、あの恐ろしい狼と結婚するなどと言い出すことになるのでしょう? 「忘れたわけじゃないでしょう、去年のこと。あの狼は、あなたを食べようとしたはずよ」  おばあさんは思い出して、震えあがりました。  おばあさんは一人暮らしなので、自分で買いものをしたり、狩りをしなければいけません。年々体力は衰えてきていますが、それでも少し離れた集落に買い物をしにいったり、猟銃を使って小さな小動物を捕えて食糧にしたりということをしています。赤ずきんちゃんやおばあさんの家は、長年猟師の一家なので女性であっても銃の扱いがとても上手なのです。  それは去年起きた事件。  おばあさんはいつものように、猟銃を持って森の中へと出かけていました。その時、たまたま家の鍵をかけ忘れてしまったのです。恐ろしいことにそのタイミングで狼がやってきて、おばあさんの家に入りこんでしまいました。狼はベッドに隠れておばあさんのフリをすると、赤ずきんちゃんを待ち伏せして食べようとしてきたのです。  幸い、赤ずきんちゃんが食べられてしまう前に、猟銃を持ったおばあさんが帰ってきたので、赤ずきんちゃんは無事で済みました。けれどもし、あと五分、いえ一分帰るのが遅くなっていたら。そう思うと、おばあさんは今でも震えが止まりません。可愛い可愛い孫娘が危ない目に遭わなくて良かったと、今でも心の底から思っています。  ところが。 「おばあさん、それは間違ってるわ」  赤ずきんちゃんはどういうわけか、狼を庇うのです。 「何度も言ったはずよ。狼さんは、私を食べようなんてしてないわ。怪我をして休むところを探していた時、おばあさんの家を見つけて入ってしまっただけ。そこで私が来たものだから、慌ててベッドに隠れてしまっただけよ。おばあさんが見つけた血のあとは、狼さんのもの。私は怪我一つしていなかったでしょう?」 「ベッドに隠れるくらいなら逃げれば良かったじゃない。私のふりをして赤ずきんちゃんを待ち伏せしていた、そう考えた方が筋が通るわ」
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