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裏に従業員出口などがあったのかもしれないが、その場所もぱっと目に付くところではわからなかった。そっちは本当に誘導灯そのものが外されてしまっていたのかもしれない。それこそ消防検査を行った直後に外されてしまったら、当然検査で引っかかるはずもないのだ。段ボールも同じ。日常的に積まれてしまっていたのだとしても、検査の日だけどこか別の場所に避けておけばなんら問題ないことになってしまうのである。
キッチンから出たと思しき火は、あっという間に厨房や廊下をなめつくした。全員揃って丸焼けにならなかったのは、ひとえに私が出火直後の段階でコゲ臭さに気づいたからに他ならない。ぴったりと閉じたドアの向こうは、私が気づいた時にはもう煙でいっぱいになっていた。死者数三名というのは、悲劇でありながらも最悪の数字ではなかったのである。
「その上、従業員がほとんど避難誘導というものをしませんでした。酷い話だと思いませんか、穂乃花さん」
「……そう、ですね、本当に……」
「そして私はこれを、殺人事件と踏んでいるわけなんですけどね」
「!?」
穂乃花の顔が、ぎょっとしたように強張った。どうやら本気で気づいていなかったらしい。こんな風に自分が彼女を呼び出した時点で、“貴女のことを疑っています”と言っているようなものだと思わなかったのだろうか。
「従業員は逃げて、しかもそのまま行方知れずなんです。未だ警察の目も掻い潜っています。……用意周到すぎると思いませんか」
気持ちを落ち着けるために、マナーが悪いと思いつつもスープを一気に飲み干した。そのままやや乱暴に皿をテーブルの端によける。カシャン、と多少大きな音がしたが、気にしてはいられなかった。
落ち着け、落ち着けと自分自身に言い聞かせる。たとえ、穂乃花の一挙一動がどれほど鼻につくのだとしても。
「お兄ちゃんから聞いてました。式場、半ば強引に決めたのは穂乃花さん、貴女でしたよね?……披露宴会場を花飾りでいっぱいにしようと言い出したのも。貴女はそれを利用して、誘導灯を隠したのでしょう?」
「そ……そんな!確かに私は演出の多くを提案しましたけど、それを通したのはプランナーの方で……!」
「そう。だからこれは最初から、貴女と式場関係者が結託して行った犯行」
そもそもあの結婚式場は、一年前にオープンしたばかりの場所だった。兄と穂乃花が付き合ったのと、ほぼ同じ時期だ。
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