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誘導灯を外したり隠したり、煙がぴったり室内に入らないような披露宴会場を作ったり、階段を段ボール箱で塞いだり。一見すると会場側の怠慢に思えるが、その後流れるように関係者が全て姿を消したことからしてもそう考えた方が納得がいくのである。
最初から、あの式場で事件を起こすことが前提だったのだと。
それもわざわざ結婚式の現場である必要があったというのはつまり――彼女は兄のみならず兄の親戚と友人、おまけに自分の親族と関係者まで“殺しても構わない”と思っていた可能性が高い。否、むしろまとめて殺してしまいたかったと考えた方が筋が通るだろう。
「警察も、放火か失火かわからないとは言っていたけれど……キッチンから火が出ているのはほぼ確実だと言っていた。そしてキッチンは、民間人が容易く入り込めるような構造になってない。失火はもちろん、放火したとしたら犯人は式場関係者ということになるわ」
穂乃花は目を泳がせたまま、何も言わない。動揺しているのか、あるいは動揺しているフリなのか。
「貴女は結婚式という場を利用して、自分の親族も、兄のみならず兄の親族も全て始末しようとした。残念だったわね?私、人よりちょっとだけ“鼻”が利くの。これでも一応料理研究家ってやつだから、焦げくさい臭いなんてすごく敏感なのよね」
「わ、私は」
「重たいドレス姿なのに、貴女は軽傷で済んだ。当然と言えば当然よ、誘導灯を消してあっても……何度も逃げる練習をして、場所を覚えている人間なら辿りつくのは難しくない。私が火事に気付いて声を上げた瞬間に何故か停電したけど、あれもわざとよね?窓がない真っ暗な部屋から、よく逃げおおせたものよね」
「そ、それは」
「まあ、スマホの明かりを頼りに貴女が逃げていく方向を追いかけていったら案の定で、そっちに非常口があったから……みんなを誘導できて、たくさんの人が助かったけれど。……本当に私達をきっちり殺すつもりだったんなら、貴女は自分の命を捨てる覚悟を持つべきだったわね。式場とダミー会社一個作るくらいお金を擲つ覚悟はあったけど、自分の命はやっぱり惜しかったというわけ?」
現時点で、決定的な証拠があるわけではない。だが、警察も馬鹿ではないだろうし、あの式場経営者について調べを進めていけばいずれ穂乃花に辿りつくこともできるだろう。そうでなくても、逃げている式場関係者を捕まえればおのずと全てを吐くはずだ――一体誰に頼まれて、このような大掛かりな事件を起こしたのかということを。
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