一生忘れない、忘れたくない夏の思い出

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「ただいまー」 家に帰るとキッチンからママがひょっこり出てきた。夕食作りの途中だったみたいで濡れた手を拭きながら私に「おかえり」と言い、1枚のはがきを渡してっ来た。…おばあちゃんからだった。そのはがきにはおばあちゃんの綺麗な流れる字で季節の挨拶から始まって、私がおばあちゃんの家に夏休みに来ることをとても楽しみにして待っているということが書かれていた。 「…いいの、梅?愛ちゃんと夕子ちゃんと夏休み遊ばず、そっちに行って」 「うん、いいの」 「梅が1か月もうちにいないとか初めてでママもちょっと寂しいとか思っちゃってるんだけど」 「…ごめん、ママ」 私は持っていた鞄を持ち直し、背筋を伸ばしてきっぱりと宣言するように言う。おばあちゃんが高齢なのは本当だけど私がお手伝いしなきゃいけないほど弱ってもない。むしろ元気すぎる。それに本当は畑仕事も好きじゃない。夏だったら暑いのは絶対だし、虫も当然出る。田舎だからかもしれないけど蛇を見たこともある。おばあちゃんは好きだけど1か月も寝泊まりしてまでも行きたい場所ではないのだ、本当は。こっちにいて友達と遊んで、クーラーの効いた部屋でダラダラして、好きな時にコンビニに行ってアイス買ってとかのほうが絶対楽しい。それでも私はこの夏休み、この町にはいたくなかった。
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