苛立ちと背負子

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苛立ちと背負子

 自衛隊のヘリコプターの大型空輸によって救援物資が全国から続々と集まってきた。  僕らがいる避難所の校庭にも開封されないままの物資の箱が詰まれていた。  その中にはタカさんが持ってきた物の残りも含まれていた。  タカさんは何時までも行き先の決まらない救援物資の箱をぽんぽんと敲きながら溜息を吐いた。  僕らは縦割りで融通の利かない行政の対応に業を煮やしていた。被害の状況や自治体の機能によって他の避難所との格差が起きていると耳にした。    この震災を修学旅行で学んでいた僕は、分断された避難所や小さな施設では物資の不足が深刻化していることや、倒壊を免れ自宅で生活している被災者たちも満足な食事や防寒が出来ていないことを知っていた。僕は早急な物資の流通を訴えた。    軽率なボランティア青年たちにも寛容だったタカさんなのに、事あるごとに視察に来ている御偉方に噛み付いた。直訴しても事態は好転しなかった。 「待っとっても誰も何もせんなら、オイたち自らがどげんかせんばいけんやろがい」  業を煮やしたタカさんと僕は、仕分けに人手が足りないとか、数が疎らで均等に分配出来ないという理由で手付かずのままだったり、重複して余剰に放置されたままの救援物資を、勝手にトラックの中に積み込み避難所を出発しようとした。  荷物を持ち出す際に管理する行政の担当者と一悶着があったが、タカさんは怒号で一喝した。 「何度も言わせるな。被災者の手に渡らん箱に入ったままの救援物資は場所とる単なるゴミと変わらん。おまえらは役所のルールや体面のために集まった善意ばゴミに変えてしまうつもりか! オイのすることが泥棒ならば後から逮捕でも何でもすればよかやっか。だけん今はごちゃごちゃ言わず黙って行かせろ!」  僕らがやろうとしている事は明らかに犯罪だ。無謀で計画性の無い暴走行為だ。行政が何もしていない訳じゃない。彼らにとってもこれは想定外の大惨事なのだから、暗中模索なのは仕方がない。地元の運送会社との連携で物資の分配を進めているらしいが、全てが後手後手でニーズを把握した迅速な対応が出来ていないのが実情だ。結果、多くの救援物資が被災者の手に渡らず廃棄された事を未来の僕は知っている。  排除された瓦礫が路肩に高く積まれた悪路を車で行ける所まで進み、崩壊した道路が分断されてそれ以上無理だと判断した場合は背負子に積載出来るだけの物資を固定した。タカさんは僕のものより数倍も重い物を難なく背負っていた。やっと打撲から解放されたばかりの僕も負けじと二回り小さなキャリーカートを背負った。最初は立ち上がることも出来ず、裏返された亀のような姿で背中から倒れてしまい足をバタつかせてもがいた。タカさんが僕の手を掴み難なく引き起こしてくれた。 「無理すんな」  彼は首を横に振る。 「無理じゃありません。これ位の重さ」  僕も首を振った。  タカさんは重い荷物を背負ったまま、道路を塞ぐ崩壊した瓦礫が積み重なった虚実な丘を難なく乗り越えて行く。  僕も軍手をした掌に割れたコンクリートや折れた木材の鋭角を感じながら、四つん這いで攀じ登った。落ちた波板トタンや雨どいの丸みで足を滑らしたりもした。それでも転ぶことなくなんとか体勢を保ち進んだ。  その一歩一歩を繰り返した。  無慈悲に襲ってくる疲労に呼吸が乱れて息を大きく吸い込む度に、全焼した家屋からの燻りの臭いが肺を支配し激しく喘いだ。
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