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プロミスリング
「萩くん、起きて!起きてよ!大変なの!」
12月24日、クリスマスイブの朝。
俺は彼女の甲高い声によって叩き起こされた。
声の主は同棲中の恋人・りっちゃんこと立花莉子。
どうやら、りっちゃんの身に大変な事が起こったらしい。
すごく心配だけど、その意思に反して俺の目はなかなか開いてくれない。身体もベッドに張り付いたみたいに全く動かなかった。
これには訳がある。昨日まで海外に出張していて、昨夜遅くに帰国したのだ。慣れない海外での仕事に体力を使い切ってしまったわけだ。
動かない俺の身体をりっちゃんは揺さぶり続ける。「萩くん!」と泣きそうな声で助けを求める彼女の為に俺はやっとの思いでベッドから身体を剥がした。
油断すれば閉じてしまいそうな目を擦りながら「朝からなに?」とりっちゃんに尋ねる。りっちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「宝物が、無くなったの!」
「宝物?宝物って何?」
「えっと……すごく大切な物!大切な物が、無くなっちゃったの!」
りっちゃんに宝物があったなんて初耳だ。彼女が探している宝物がなんなのか、俺はそれが知りたかったのに、りっちゃんからは見当違いの答えしか返って来なかった。
起き上がった俺はベッドに腰掛け、りっちゃんの言葉を待ち続ける。しかし、りっちゃんは何かを迷っているらしく、いつまで経っても探している宝物が何なのか説明してくれない。痺れを切らした俺は「りっちゃん」と声を掛けた。
「あのね、りっちゃん。宝物が何か分からないと俺も一緒に探せないよ。どんな物なの?」
「その……こんな、丸いやつ。キラキラしてる、丸いの」
りっちゃんは右手を持ち上げ、親指と人差し指で丸い輪の形を作る。それじゃヒントにならないし、伝わらないでしょ。俺は思わず「りっちゃん」と呆れ声を上げてしまった。
「子供じゃないんだから、もっと具体的に言ってよ。というかそんな抽象的な言い方しなくても名前で言えるでしょ?」
「無理!説明できないよ!もういい、自分で探す!萩くん、起こしてごめんね。寝てて!」
立ち上がったりっちゃんは「ごめんね!」と謝った後、寝室のドアを閉めた。
残された俺は大きな欠伸を溢し、頭をかく。
キラキラしてる、丸いもの、か。
もしかして……黙ってあれを借りたの、バレたかな。
立ち上がった俺はクローゼットを開き、ビジネスバッグを手に取る。そしてバッグのポケットから自分の働く会社のロゴ入りの封筒を取り出した。
封筒の口を開いてひっくり返すと、中からキラキラした丸いものが現れる。
それは——シルバーの指輪だった。
ハートが3つ連なったデザインは、大人になって改めて見るとやっぱり幼い感じがした。
俺は指輪を手に持ったまま、寝室とリビングを繋ぐドアを振り返る。
今もりっちゃんがこの指輪を大事にしているって話は……どうやら本当だったみたいだ。
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