プロミスリング

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先月、俺はりっちゃんの友達の透和(とわ)ちゃんに電話を掛け、「りっちゃんの指輪のサイズを調べたいから協力して欲しい」とお願いした。 透和ちゃんとは、りっちゃんを含む3人で何度も遊んだ事があった。そのおかげもあってか、俺が事情を話すと『協力するよ』と快く承諾してくれた。 『でも奈宮くんって莉子と同棲してるよね?いっぱいチャンスがありそうだけど』 「いや〜俺って鈍臭いからさ、りっちゃんが寝てる間にサイズを測るとか、そういうのやり切る自信がなくて」 『なるほど。まぁ私も頑張ってみるよ。……あ、ちょっと待って。調べる必要、ないかも』 「え?どういう意味?」 俺は駅からマンションに向かう途中で足を止めた。りっちゃんにこの会話を聞かれないために、わざわざ外で電話を掛けたのだ。 『1年くらい前なんだけど……莉子が指輪を見せてくれたことがあって。ハートの指輪。奈宮くんに貰ったって言ってたけど……その指輪のこと、憶えてる?』 「え、それってもしかして……俺が初めてのクリスマスにプレゼントしたやつじゃない?」 記憶を遡りながらそう尋ねると、透和ちゃんは『そうそう。莉子がその話をしてたよ』と教えてくれた。 それは今から10年前—— 高校2年生のクリスマスイブの日の記憶だ。 恋人として初めて迎えたクリスマス。 俺はりっちゃんへ指輪をプレゼントした。 このプレゼントを選んだのには理由がある。 あの日、俺もりっちゃんもクラスのクリスマス会に参加するため、高校から近いショッピングモールにいた。時間潰しにショッピングモール内を歩いていた俺は、買い物中のりっちゃんが女友達と雑貨屋で指輪を試着する姿を見掛けた。 りっちゃんはハートの付いた指輪を気に入ったらしく、「この指にぴったりだ〜」と左手に指輪を試着して友達に見せていた。しかし友達に「左の薬指だけどいいの?」と指摘されると、りっちゃんは「じゃあいいや」と指輪を売り場に戻し、雑貨屋を出て行った。 その一部始終を見てしまった俺は、りっちゃんが立ち去った後、アクセサリーコーナーに近付いた。ハートが付いた指輪は1つしかなく、りっちゃんが欲しがっていたのはこれだと確信した。 大好きなりっちゃんに喜んで欲しい……それしか考えられなかった俺は、迷わずその指輪を購入した。そしてクラスのクリスマス会が終わった後、りっちゃんに指輪を渡したのだ。 りっちゃんは俺が想像した以上に喜んでくれた。そんなりっちゃんがかわいくて仕方なかった俺は、我慢できず人がいる場所で彼女にキスをしてしまった。 初めてのクリスマス、初めてのプレゼント、初めてのキス。 あの年のクリスマスにはたくさんの初めてと思い出が詰まっていた。 透和ちゃんから指輪の話を聞いた俺は、りっちゃんが出掛けている隙に彼女のジュエリーボックスを開いた。オモチャみたいなハートの指輪は大事に保管されていた。 透和ちゃん曰く、りっちゃんは左手にこの指輪をはめて見せてくれたらしい。そして今も薬指にぴったりなんだと話していたそうだ。 10年間、りっちゃんはなかなか決心がつかない俺を待っていてくれた。 高校時代の友人がどんどん結婚していく中、りっちゃんも不安だっただろう。それでも辛抱強く隣にいてくれたりっちゃんには感謝しかなかった。 早く本物をプレゼントしてあげなきゃ—— そう思った俺はハートの指輪を拝借し、新しい指輪を買う為にジュエリーショップに向かった。
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