プロミスリング

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俺たちは今年で27歳になった。 付き合い始めてから10年、楽しい事は共有し、辛い事は一緒に乗り越えて来た。 2年前、俺は地方の営業所へ期限付きでの異動が決まった。 りっちゃんは「ついて行きたい」と言ってくれたが、俺は「2年で戻ってくるから、待ってて欲しい」と伝えた。仕事を辞めさせて知り合いのいない地方にりっちゃんを連れて行くなんて、俺にはできなかったのだ。 2年間の遠距離恋愛は、寂しさでおかしくなりそうだった。会えるのは月に1回が限界で、りっちゃんの存在の大きさを改めて噛み締める機会になった。 そして2年という時間は、俺にりっちゃんとの結婚を決心させてくれた。 半年前、都内の営業所に戻ったのを機に俺はりっちゃんに「一緒に暮らそう」と提案した。りっちゃんが「プロポーズじゃないんだ」と残念がっていたので、俺は「それはいつか、改めてね」と伝えた。りっちゃんは「楽しみにしてるね」と微笑んでくれた。 そろそろりっちゃんも待ちくたびれた頃だろう。 でも最初から俺の中で、プロポーズはクリスマスイブにすると決めていたのだ。 俺はハートの指輪を握りしめたまま、ビジネスバッグを漁り、紙袋を取り出す。出張の間も肌身離さず持ち歩いたその袋には、有名なジュエリーブランドのロゴが描かれていた。これは家に隠しておいても良かったが、絶対にりっちゃんに見つけて欲しくなかったので、念のため持ち出しておいたのだ。 ベッドに座り直した俺は紙袋の中から白いリングケースを取り出した。 いざりっちゃんに渡すとなるとやっぱり緊張してしまう。でもこれ以上、りっちゃんを待たせるなんてできない。覚悟を決めた俺は立ち上がり、寝室のドアを開けた。 りっちゃんはダイニングテーブルに伏せていた。宝物が無くなって相当落ち込んでいるみたいだ。 テーブルの上にはジュエリーボックスが置いてある。やっぱりあのハートの指輪を探していたみたいだ。 「りっちゃんが探している物は、イヤリングですか?ネックレスですか?」 俺がそう尋ねると、りっちゃんは少しだけ頭を持ち上げ「指輪です」と正直に答えた。その声は明らかに沈んでいた。 「じゃあ……りっちゃんが探している指輪はシルバーですか?ゴールドですか?プラチナですか?」 「シルバーの……ハートがついたやつ」 あまりにも正直なりっちゃんがかわいくて、俺は思わず笑ってしまった。 あの指輪を、りっちゃんは今も宝物にしてくれていた。大人になった今も友達に見せびらかすくらい、大事にしてくれていたんだ。 俺はりっちゃんに向かい側の椅子を引く。りっちゃんは相変わらずテーブルに顔を伏せたままだ。俺は手の中のシルバーの指輪と白いリングケースを見つめる。そしてそれをテーブルの中央に並べ、リングケースを開いた。そして「りっちゃん」と声を掛けた。 「正直者だねぇ。いい子のりっちゃんにはこれをあげよう」 そう口にした直後、なんだか童話の金の斧、銀の斧に似ているなと思った。 りっちゃんがのろのろと動き出す。顎をテーブルの天板にくっ付けたまま顔を上げた彼女の目が指輪を捉える。その瞬間、りっちゃんは大きく目を見開いていた。
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