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慌てて身体を起こしたりっちゃんは「なに、これ」と声を震わせる。
両手はテーブルに置いたまま、動こうとしない。手に取って欲しいのに、警戒しているみたいだ。
「りっちゃんが探してた指輪だよ。ごめんね、ちょっとサイズが知りたくて借りてたんだよ」
俺はりっちゃんが探していたあの指輪がいなくなった理由を説明した。しかしりっちゃんは首を横に振るばかりだった。
「それはいいんだけど。そうじゃなくて。こっちのダイヤの指輪のこと」
りっちゃんが指さしたのは、白いリングケースの方だった。驚いていたりっちゃんの目が、次第に潤み始める。コロコロと表情を変えるりっちゃんが愛おしくて、俺は自分の頬が緩むのを感じた。
俺は白いリングケースを手に取った。
「りっちゃん、いっぱい待たせてごめんね。長い間、オモチャの指輪で我慢させてごめんね。りっちゃんの友達に、りっちゃんが今もこの指輪を大切にしてるって聞いたんだ。一緒に暮らす事になった時からクリスマスに言おうって決めてた。高校生の時も、大学生の時も、今も、俺はりっちゃんが一番好きだよ。その気持ちはこれからも変わらないと思う。りっちゃんと一緒にいたいって気持ちも同じ。だから……俺と、結婚しよう」
真っ直ぐにりっちゃんを見つめ、俺はリングケースを差し出す。りっちゃんの頬を涙が転がり落ちるのが見えた。
2人で暮らす部屋、いつもの休日の朝。
寝起きでパジャマ姿のまま、ロマンチックには程遠い、ムードも何もない。
かしこまったレストランより、日常の中で伝える方が俺らしい。ただ漠然とそう思ったここでプロポーズをした、それだけだ。
「萩くん以外、あり得ないもん……萩くん以外の人、好きになるつもりないから」
「じゃあ、俺と結婚しちゃう?」
恥ずかしくなった俺は、つい茶化すようにそう尋ねてしまった。
涙目のりっちゃんが笑顔になる。そして「……しちゃう」と頷いた。
俺はリングケースをテーブルに置き、りっちゃんの左手を取る。そして大奮発した大粒のダイヤが輝くプラチナリングを華奢な左手の薬指にはめた。
俺が「ぴったりだね」と頷くと、りっちゃんはまた泣き出してしまった。泣きながらりっちゃんが左手を光に透かす。そして俺に手の甲を見せ「似合うかな」と首を傾げた。
「かわいい」
「指輪が?」
「ううん。泣いてるりっちゃんが、すごくかわいい」
「……バカ」
真っ赤になるりっちゃんがかわいくて、どうしようもなくて、胸がいっぱいになった俺はもう笑うしかできなかった。
さて、結婚するとなったら色々と忙しくなるだろう。
やることもたくさんあるはずだ。
でも何があっても、りっちゃんが一緒ならどんな事だって乗り越えられる、そんな気がしていた。
「りっちゃん、大好きだよ」
「私も萩くんが大好き」
そう微笑むりっちゃんは、世界一かわいい俺の宝物だ。
END
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