真夏の輝き

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 稔は昨日と変わらず縁側にいた。空に主張の激しい太陽がいるのも昨日と変わらない。  暑さのあまり仰向けに寝転ぶと、床がほんのり冷たくて気持ちがいい。「暑いー」と呟いてみるものの、それすらも蝉の鳴き声にかき消される。こっちに来てから、何ら変わり映えのない時間である。  夏休みになると、毎年田舎のおじいちゃんの家に遊びに行っていた。昔は家族で来ていたものだったが、兄の翔が中学生になってからは2人で来ることが多い。 「はー、暇だなー」  仰向けのままちらりと室内を見ると、子ども部屋と称された6畳間では翔が参考書を開いている。高校生ともなると宿題以外にもやることが多いようだった。稔には一瞥もくれない。  稔は兄の翔と2人兄弟であるが、年が7歳も離れている。稔がようやく小学校に上がったとき、翔はすでに中学生だった。  翔が小学生のころ、必然的に稔はまだほんの小さな子どもだったが、そのころは2人で仲良く遊んでいた。自分でも、友達に比べると兄弟で仲の良い方だと思っていた。男の子が2人もいると手がつけられなくて大変、と母からよく呆れられていたほどである。  しかし、翔が中学生になると同時に、仲良し兄弟の間に溝が生まれた。それは、最初は小さく一歩踏み出せば軽々超えられる程度だったが、徐々に大きくなり、今では簡単には渡ることのできないほどになってしまった。もちろん会話はするしお互い嫌いなわけではないけれど、昔みたいに無邪気に遊ぶようなことはもうできない。きっと、翔は大人びている子どもだったから、自分はもう子どもではない、小学生となんか遊んでいられるか、と思っているのだろう。  おじいちゃんの家に来てから、翔は勉強をしていることが多かった。遊ぶ友達もいないから集中してできるのだそうだ。一方の稔は、とっくに宿題を終わらせてしまった。夏休み中盤ともなると絵日記ぐらいしか残っていない。こんなことならもっとゆっくり宿題をやればよかった。 「兄ちゃん、今何してるの?」 「宿題」  分かってはいるが、やることもないので翔に遠慮がちに声をかけてみた。案の定の冷たい返答。ふーん、とだけ言って再びごろりと寝転がる。翔は顔を上げさえしなかった。  これ以上は相手にしてくれないと悟った稔は縁側から庭に出て、一人でぶらぶらと歩き回った。  最初の数日はおばあちゃんもおじいちゃんも何かと世話を焼いてくれたが、こうやって何日も泊まっていると、もともと一緒に住んでいたかのように相手にされなくなる。特に翔が勉強ばかりやっているものだから、2人の勉強の邪魔をしないようにと、いらぬ気遣いをしてくれるのである。翔に話したいことも行きの電車で全部喋ってしまった。帰りも翔と2人で長い時間電車に乗っているのかと思うとため息がもれた。 庭を意味もなく2往復ほどしたところで、何か遊ぶものはないかと物置きを開いてみる。  一番目立つところに水鉄砲が置かれていた。うっすらと埃が積もっている。
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