真夏の輝き

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「宝の地図……?」  紙にはそう書かれていた。文字の下には宝の在処を示す地図が描かれている。色鉛筆が使われていて、地図にしては色鮮やかだ。どう見ても子どもによって描かれたものだが、稔の記憶にはない。もっと小さいころに描いたのだろうか。  よく見ると、地図が示しているのはこのおじいちゃんの家らしかった。位置関係が分かりやすいように、紙を上下180度に回転させる。宝が隠されているであろう場所には星印が付けられていた。星印は、『神さまのへや』と書かれた四角の中にあった。  稔にはそれがどこかすぐに分かった。仏壇が置かれている部屋だ。幼かったころ、翔とともに部屋に名前を付けて遊んでいたのだ。仏間が『神さまのへや』で客間が『お客さまのへや』、台所が『食堂』だ。あれは稔が呼び始めたんだったっけ。  さっそく、『神さまのへや』に行ってみることにした。星印の下には『ひみつのとびらをさがせ』と書かれている。つまり、扉の裏か隙間を探せばいいってことだ。  ところが、予想に反して宝は見つからなかった。引き戸の隙間や箪笥の引き出しなど、扉のようなものは一通り探したが、どこにもない。そもそも、宝の地図なんて偽物だったのかもしれない。稔が小さいときに落書きでもして、それがそのままになっていたのだろう。記憶にはないが、そう考えるとそんな気がする。 「まぁ、ちょっとした暇つぶしにはなったし、いっか」  稔はため息とともに呟き、子ども部屋に戻った。宝の地図をうちわ代わりに仰ぐと、かすかにカビのような臭いがした。
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