異世界村

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「さて。ここの裏から続く山道を進めば、研究所につながり、持ち物を返してくれ、あなたがたを街まで送ってくれます」  神様は聖殿ぽい建物の奥へと俺たちを連れていくと、解放してくれた。 「この村の者たちは、ここをすっかり異世界だと信じこんでいますし、もう元の姿に戻ることもできません。  だから、こうして彼らから見つからないように解放するしかないのです」 「え。つまり、あなたは……」 「研究者です。  キメラの実験台になる前の英断は賢明です。まだ人間に戻すことはできないのです」 「え。じゃあクルミさんは」 「クルミさんは特別ですから、人間にも獣の状態にもなれます。  よかったですね、クルミさん」 「はい。お世話になりました」 「では、ごきげんよう」  神様もとい研究者に見送られ、ふたりで歩きだす。クルミさんの耳や尻尾は縮んでいき、普通の人間になっていった。 「本当に良かったのですか。俺、無職ですよ」 「知ってます。情報は聞いてました。  あ、ヒロさんの返事聞いてませんでした。ついていっていいですか」 「もう、今さらあっちには戻れないでしょ。一緒に行きましょう」  朝日がのぼる。それと同時に雨もちらついてきた。 「あ。狐の嫁入りだ」 「やっぱりそうなったのね」 「え?」 「私、本当の狐なの」  横にいたクルミさんは、一匹の赤狐になっていた。  そんなクルミさんもとてもかわいくて、俺は唯一無二のかわいい妻のために頑張って生きようと、心に誓った。  そのご。つらくなったときには妻が支えてくれている。  そして、渡されたあのペンダントを触ると、ちょっと異世界村が懐かしくなるとともに、苦しくても自由な世界を楽しもうと思えるのである。 了
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