June pride

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 渋々チャペル内へと入り、後方の席へ参列すると、キィィという木製扉の音がして、バタンと両開きの重い扉は閉まった。  ピアノの生演奏と讃美歌がチャペル内を包み、どこからやってきたのかもわからない異邦人の独特のイントネーションで、二人は永遠の愛とやらを誓う。  ステンドグラスから差し込む光が逆光となって、陽介がベールを上げた彼女の顔は、チャペルの最後尾席からは全く見えなかった。  やがて二人の影は一点で重なり、客席から祝福の喝采が湧き上がる。  その後参列者は配られた花びらの束を持ち、庭に敷かれたレッドカーペットの両脇に並んだ。駐車場へ向かおうとしていたオレにもその花びらを渡されて、仕方なくオレも後方に並ぶ。  主役の二人がカーペット上を歩き出すと、参列者はこぞって祝福の言葉と共に花びらのシャワーを浴びせた。 「おめでとう。お幸せに!」  二人の両脇から、次々に色とりどりの花びらが舞う。二人は満面の笑みで「ありがとう」と応えながらカーペットを進む。  段々と二人が近づいてくる。心臓がドクンドクンと嫌な音を立てる。陽介が後方に佇むオレに気付いて、一瞬目が合うと満面の笑みを向けて… 「来てくれてありがとな! 涼!!」 と声を張った。  オレは何も言い返せず、とりあえず持っていた花びらを全力で宙に向かって投げつけた。 * * *  これで結婚式も終わり。あとは披露宴だが、オレはもう帰らせて貰う。そう思いながら駐車場へ向かうと、突然背後から「笠井さんですか?」と声をかけられた。振り向くとそこには、少しだけ息の上がった純白のドレス姿の花嫁がいた。 「あんたは……」 「今日から陽介の妻の、あかりです」 (あっそ) 「で?」 「一言謝りたくて。酷いことしちゃったなと思って……去年の誕生日の時」 「ドッキリのこと?」 「ええ。まさか陽介が本気にするとは思わなくて……」 「どういうこと?」 「あの時私……貴方に嫉妬してたの。陽介が、結婚準備よりも貴方の誕生日を優先したから。『その日は涼の誕生日だから絶対ダメだ』って言われて」  つまり彼女はオレの誕生日に、式場選びなのかドレス選びなのかわからないが、とにかく陽介と結婚準備の何かしらをしようと思っていたが、陽介はオレとの誕生日祝いを優先した、ということらしかった。  それで彼女が腹を立てていたのも気づかずに、陽介は無神経にも「涼の誕生日、何あげたらいいと思う?」と相談したため、彼女は「指輪でサプライズしたら? この箱使っていいから」と、婚約指輪のケースを貸したのだそうだ。
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