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梅雨の晴れ間。下ろしたての桃色のネクタイを緩めて、汗ばむ白いシャツの第一ボタンを開ける。ジャケットを脱いだところでシャツは長袖だし、スーツと同じ紺色のベストまで着ているので、全くと言っていいほど涼しくはならなかった。
「何でこんな時期にわざわざやるかねぇ…」
日陰のベンチから木洩れ日を仰ぐ。とりあえず日向の照りつける暑さよりはマシ……といったところで、昨夜まで降り続いた雨を含んだ外気は、ミストとなって肌へ張り付いて、ちょっとしたサウナ状態だ。
『ジューンブライド』
……などというふざけた風習(?)は、一体どこからやってきたのだろうか。
今日はたまたま晴れ間が覗いたが、そもそも日本は梅雨真っ只中だ。六月に結婚する花嫁は幸せになる? では花婿の幸せは? 参列者のこの蒸し暑さによる不快感は!?
もし今日が雨だったなら、礼服のクリーニング代くらい保障して貰わないと割に合わないぞ、ジューンブライドめ!!
(いっそ雨ならぶっちぎれたのに……)
綺麗に手入れされた洋風の庭を眺めながら、そうもいかないだろうなと自覚もしていた。整った芝生の続く庭の隅には、この時期にはうるさい程の色鮮やかな花々がひしめき合っている。それはまるで、他人を祝福出来ない人間を嘲笑うかのようだった。
背後にそびえ立つチャペルには、続々と招待客が集まっている。勿論オレもその中の一人だ。が、もうすぐ式の始まる時間だとわかってはいても、なかなか足はチャペルの中へ向かおうとはしなかった。
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