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探しもの
ある日、都筑ヶ丘市の市役所前交差点で、70代から80代くらいの男がライトグレーのスーツ姿に黒のリュックを背負い、おかしなプラカード持って立っていた。
ーー私の差し歯を探してください。見つけた人には300万円差し上げます。ご参加くださる方はネットから申込み。名前と連絡先を入力。
道通りの人は皆そのプラカードを目にした。
「え。差し歯だって」
「汚ったないよな、差し歯なんて」
「人の差し歯なんて探すわけないじゃんか」
「でも300万だってよ」
「差し歯探して300万円ってすげぇな」
「あの人の差し歯ってことよね?」
「想像しただけで臭いそう〜」
「300万円の価値がある差し歯って、金で出来てたりするのかなぁ。見てみたい気もする」
「ねぇ、詐欺ってことはない?」
「振り込め詐欺とか?」
「でも振り込まれる側だから、違うだろ」
「あ、そっか」
皆気になるものの、敢えて話を聞きに行こうとしない。参加表明するには連絡先も教えなければならないし、差し歯見つけて300万なんて美味しすぎて、やっぱり詐欺じゃないかと疑ったりする。
しかしその男は3日間、そこに立った。
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