探しもの

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 その光景を面白く感じた若者がSNSなどに拡散すると、そのプラカードを見た物好きな若者から、男の元に参加希望のメールがき始めた。男は参加希望者と連絡先を交換をし、差し歯の画像と落ちたと思われるルートなど、落としたときの情報をパスワードつきで与えた。    落としたのは5月25日。1ヶ月程前の話だ。新芽がキラキラと、眩い甘い香りのする季節。  茜新町の駅にある病院の帰り道だった。男は帰りのバスで途中下車をして、健康のため動物病院から坂野公園まで約2kmを歩いている。  いつものように飴を舐めていると、最初の違和感を感じた。途中で差し歯が外れたのがわかり、ポケットティッシュに丸めて持っていたまでは覚えているのだが、公園に着いてティッシュを広げたらなかったという。  参加希望者からは、ならば新しいのを作ればいいじゃないか、どうして300万円も支払うのか、などという質問メールが多く寄せられた。それには、先日亡くなった妻との思い出があるから絶対に見つけたいということと、1人では探しきれないので、参加された皆さんには真剣に探して欲しいという熱望からだという。  男は「仮名:国崎」と名乗った。    探すだけならーーと、後から後から参加希望者は増え続け、その数は30名近くにまでのぼった。 「結構来たな。これで見つかるといいんだが」  国崎は毎日ネットでの連絡を待つ。参加者の名前もおそらく偽名だ。国崎も仮名としてあるからそこは仕方ない。お互い知らない仲であっても協力してくれるのには頭が下がる思いだ。  
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