7 ステファニーはどこにいる?

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   「いえ、残念ながら猫は、この木の上にもいないでしょう。  もっと猫にとって良い場所へ移動し、その安全地帯で休んでいると思われます」  「もっとステファニーちゃんにとって良いところ?」  「ええ、ここからは私の憶測が大半を占めることになるのですが、おそらく例の猫は、自宅を抜け出したあと、猫にとって移動しやすい黄金ルートを経て、この家の庭にまずはたどり着いたのだと思います。  身を隠すのに最適な草木の生い茂る広い場所、それでいて公園とは異なり個人の敷地内ですから人間の出入りは極端に少なく静かで、自分より体の大きい動物…飼い犬などもやっては来ない、安心のできるエリアです。  おまけに身を隠すのに最適な小部屋まで庭の隅には用意されている。  小部屋の前には小皿が置かれ、飲み水まであるわけですから、猫にとっては素敵なコテージのようなものです」  「神様のためのお供え用のお水を、ステファニーちゃんはいただいていたということですね。  ひょっとしたら、おばあちゃんは…お稲荷さんのためにお揚げとか、何か食べものもお供えしていたのかも。  それもごちそうになっていたのだとしたらステファニーちゃんにとって神様の祠は、食事つきの別荘みたいに思えるかもしれませんね、ホントに」  「マナさんのおっしゃる通り、そうやって迷子の猫はそれなりに快適に自由な外の世界を過ごしていたのでしょう。  しかし、このお宅は無人というわけではない、大型の猫がなすがままに庭を闊歩し供えてあるものを食い散らかしたり、小屋の中でふてぶてしく眠っていたりすれば、もっと早い段階で居住者に目撃されその存在を認識されていたはずです。  それがなかったということは初期の段階で、以前に仁見先生が話していたように、飼い猫にとって魅力的なもの…腐った肉、つまり『幽霊の右手』を偶然にも発見し、それを持ってもっと落ち着ける場所へ移動したと考えられます」  「じゃあ、あっちの大通りで交通事故に遭った身元不明の男性の右手は、このおばあちゃんちの庭まで吹っ飛ばされてたってことなんでしょうか?」  「物理的な距離を考えると、その事故現場からこの場所は離れすぎています。  やはり、実際のところはもっと事故現場の近くに『幽霊の右手』は落ちていたものの、カラスなどの腐ったエサを好む肉食の鳥類に拾われて、空を飛び、ここまで運ばれた…と想定するのが現実的かと」  「たしかに、ここのお庭の一番大きな木の上にカラスが止まっているところは何度か見たことがあります、ということは…事故現場の近くで『幽霊の右手』を見つけたカラスがごちそうだと思って、ゆっくりお食事できる場所…この佐藤さんちのお庭の木までそれを持ってきて、もぐもぐしていたら、突如乱入してきた迷子のステファニーちゃんが、その巨体を使って圧をかけ美味しそうな『幽霊の右手』を、カラスから横取りしちゃったという…」  
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