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第一話・残酷な女王の食卓
年老いた王様が亡くなられ、うら若い少女の姫君が代わりに王国を治めることになった。
城下町の食堂の一人息子フォンドボウは、近所の仲間たちと連れ立って戴冠式をのぞきに行った。
そして、王宮広場に押し寄せた人ごみの中でせいいっぱい背伸びをすると、あつらえたばかりの王冠を頭に載せた新米女王がお城のバルコニーから優雅に手をふっているお姿をひとめ拝見するや、たちまち恋に落ちてしまった。
わずか13歳にして完成された、誇り高く堂々たる所作。
気品にあふれる微笑みは、遠目にもまぶしいほどだった。
「ああ、なんて可愛らしい女王様。オレはもう、女王様のことしか考えられない」
町に帰る道すがら、フォンドボウ少年は、切ないタメ息をつきどおしだった。
「オレは、しがない料理人の息子だけど、どうにか女王様のおそばに近付けないものかなぁ」
そんな彼を、友だちは口々にからかった。
「そんなのムリに決まってらぁ。ミノホドをわきまえろよ、フォンドボウ」
「そうだそうだ。たしかにオマエは、見た目だけは、なかなかどうして、貴族のガキどもも顔負けだが。どうしたって身分は引っくり返せないよ」
「まったくだ。どうしても女王様とお近づきになりたいってんなら、悪魔にでも祈るほかない」
「……もしも、本当に女王様とお近づきになれるんなら、悪魔にタマシイだってくれてやるさ」
と、フォンドボウは、苦しそうに胸をかきむしった。
すると、街路の端の小さな露店の主が、ふいに声をかけてきた。
「坊や。そう軽々しく悪魔のウワサをするもんじゃない」
「なんだと。大きなお世話だろう。アンタはいったい何者なんだ」
「我が名はアルミルス。放浪の易者」
「易者ってことは、占い師か。アルミルスだなんて、妙な名前だなぁ」
「ほう。私の名をたやすく声に出せるのなら、君の恋は本物なのだろう」
「は……?」
「よかろう。君の力になろう」
少し鼻にかかったツヤヤカな低い声でささやくと、放浪の易者アルミルスは、頭からスッポリかぶっていた黒い薄絹のヴェールを貴族的な白い手でスッとはがした。
あらわれたのは、雪華石膏のようにすべらかな白い肌と、まっすぐに長く伸びた暗紅色の髪。
そして、切れ上がったマナジリを持つ目の中に比類なく妖しくきらめく紅玉のような双眸。
世にも稀な深紅の瞳を見てギョッと立ちすくむ少年たちを、美貌の男は面白そうに流し見てから、
「すぐに機会はくるよ。これから君は、ひたすらに料理の腕を磨くことだ」
「ははぁ、さてはアンタ、オレたちの話をハナっから聞いてたんだな。だから、フォンドボウが料理人の息子だって知って、そんなことを」
いちばん年上の少年が、大きく舌打ちをして、
「バカバカしいや。さっさと帰ろうぜ、みんな。日が暮れちまう」
と、ケゲンそうに顔を見合わせている仲間たちをせかした。
黄昏に染まりはじめた石畳の上には、ひとかたまりになった少年たちの影が異様なほど長く大きく伸びていた。
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