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美形具合に息も忘れて見惚れていると、艶やかな赤い打掛が映えるゴージャス顔の陰間は、緩く波打つ艶髪を手で払って、俺を睨んだ。
「滅多なことをお言いでないよ。お客様のお耳に入ったらどうするつもりだい。新入りが来たとは聞いていたけど、こんな品のないおのこごとはね。旦那さん、いくら保科様からのツテだって、もう一度大川に捨てて来た方がいいよ」
「なんだと! ……フガッ」
言い返そうとしたところを旦那に口を塞がれ、ズルズルと引っ張られる。
「楓、すまなかったね。良く教えておくから」
旦那はヘコヘコと頭を下げると、俺を突き当たりの部屋へと押し込んだ。
「なんだよ、さっきのやつ偉そうに!」
「偉いんだよ! この馬鹿。楓はこの茶屋の一番の売れっ子だ」
「一番がなんだよ。やってることは助平な物好き男に足を広げてるだけだろ」
スパン!
旦那の手刀が頭に刺さる。
「お前はどこの田舎から流れて来たんだ。ここまでなにも知らないとは酷いもんだ。いいか、百合、良く聞け」
旦那は陰間について再び説明を始めた。
「陰間ってのは将来の花形女形なんだ」
────元は芸見世舞台に上がる芸子の下積みの場として始まったのが陰間茶屋。芸と上演前後の食事の饗し役だけだったのが、芸の肥やしとして褥仕事もするようになった。
ここ江戸では、陰間遊びは元服した男性の嗜みで、陰間になれる美少年は希少な為に、遊女より値が張り、買った客も買われた陰間にも箔がつくらしい。いわゆるステータスだ。
陰間の多くは、芸と人気が伴って昇進するたびに高嶺の華となり、トップに上りつめれば身体を売らなくなる。そして、年季が開ければ江戸に三座あるいずれかの歌舞伎座の女形になって、芸の道を極めるか、金持ちに身請けされるって話だ。
つまりさっきの楓は店のナンバーワンで、華屋では「大華」と呼ばれているらしい。吉原で言えば花魁だ。二番手が「咲華」三番手が「瑞華」か。
その下は「小花」と呼ばれる中級集団になり、その階級が芸能界に残れる確率は五割。残りは身請けされるか芸能関係や茶屋関係の裏方に就職。
さらにその下、芸も褥も未成熟な陰間は「若草」と呼ばれ、給仕と庶民向けの低い料金設定で客相手をして、引退したら里に帰ったり一般の就職口を探すそうだ。
……うーん。江戸でも芸能界はシビアだな。全員が全員、花形女形になるんじゃないじゃん。
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