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セントラルプロモーションに着くと、権藤さんのマネージャーだと名乗る中年女性が俺を出迎え、頭の上から足の先まで視線を巡らせ確認した。
「鏑木悠理さん、ね。どうぞ」
案内されたのは事務所の一室。小綺麗なビジネスホテルのシングルルームを思わせる部屋だった。
「権藤は貴方の用意が整い次第スタンバイしますので、シャワーを済ませたらこちらを着てお待ち下さい」
扉が開かれたバスルームの前で渡されたのは、フカフカのバスローブ。
「シャワー? バスローブ? 台本読みをするのに? ですか?」
「ご確認はされてのことかと。隅々まで清潔になさって下さいね。では」
マネージャーは事務的に言うと、一礼して去っていった。
ご確認されてのことかと、と言われたらやるしかない。仕事内容の確認を怠ったことがバレてしまう。権藤さんがいたく潔癖だから、ってことかもしれないし、ペーペーの俺が知らないだけで、台本読みの前のシャワーは今やギョーカイの常識なのかもしれない。いや、それより食事や風呂にも入れないくらいに集中するから、先に済ませとけってことかも。
俺はいつもの二倍増し、体を丁寧に洗った。シャワーの熱い湯は闘志をより湧き立たせ、自分にとっても禊のようなものに感じた。
「よしっ」
バスローブに身を包み、濡れた髪を整える。乾かしておいた方がいいかな、とドライヤーを手に取ったところでインターフォンが鳴った。
権藤さんだ……!
慌てて部屋のドアを開けに走る。
「権藤さん! このたびはご指名ありがとうございます! 鏑木悠理です。今日はよろしくお願いいたします!」
「ああ、とりあえず中に入れてくれ」
「は、はいっ。失礼しました! どうぞこちらへ!」
俺の部屋じゃないのにおかしいけど、他に言葉も見当たらない。とにかく失礼がないように、だ。
──しかし凄い威圧感……。
権藤さんは強面に百九十センチ近い背丈、筋肉がシャツの上からでもわかるほどに鍛えられた体をしている。確か還暦になると聞いているけど、年齢を全く感じさせない姿はさすが敵役OF敵役。
半端ないラスボス感に圧倒されて直立していると、権藤さんはベッドに腰掛けるよう、顎で促した。
「さっそくヤろうか」
挨拶もそこそこにもう台本読みか。さすが権藤さん。気合いが違う。
「は、はい! 宜しくお願いします!」
俺は鼻息も荒くベッドに腰掛けた。
でもそういえば台本は……権藤さんを見上げるその途中、権藤さんの体が俺に被さった。
えええ? なんだ、これ──。
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