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「……なんだ、あんた、女官か? あんたが捕まえようとしていた男は、俺が追っていた男と同じ奴かもしれねえな」
男はがっかりしたような声で言って剣を鞘に収め、翠香は肩の力を抜いて男を振り向く。その時、天を覆っていた雲が晴れ、にわかに柔らかな月光があたりを照らした。
不思議な温かみのある黒い瞳と目が合った。大きなつり目だ。鼻も口も大きい。眉は真っ直ぐで太い。黒い長袍に包まれた身体は筋骨たくましく、背が高い。黒髪はきちんと髷にしている。三秒で絵に描けそうな分かりやすい容姿の人だなと翠香は思った。
男はしばらくの間、翠香の顔を穴が開くほどまじまじと見つめていた。翠香は思わず木刀を拾い、それを構えた。
「あ、あなたは、どなたです? 宦官には見えませんけど、夜盗ですか?」
「この俺を夜盗呼ばわりするとはねえ」
男は愉快そうに笑い、腰に差していた剣を鞘ごと抜く。使い込まれたいい武器だと翠香は思った。
「皇帝の新しい側室が後宮へ木刀を持ち込もうとしたって話を聞いていたが……そうか、あんたがその側室か」
男は剣を鞘から抜き取り、剣の方を地面に捨てて鞘を片手で構えた。
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