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「理由は聞くな。約束してくれたら、私には思い残すことはない。この老体を新たな王朝の礎として喜んで捧げよう」
翌日、思文は都を急襲して皇帝の首をはね、彼に娘を託した男は戦死した。
*
革命の成立と新王朝の樹立から半年後。初夏の日差しの照り付ける都の大通りを、ささやかな花嫁行列がゆっくりと進んでいた。町人たちは額の汗をぬぐいつつそれを遠巻きに眺め、それぞれの口で勝手なことをささやいた。
「噂の花嫁さんのご到着だよ」
「ずいぶん遅かったな」
「父親の喪が明けるまで待ってたんだって」
「あの方の最期は立派だったらしいね」
「一緒にいたご長男は戦場で行方知れずになったままだとか」
人々の視線がそそがれているのは花嫁行列の先頭。国章の入った黒い輿だ。花嫁衣装を着せられた翠香はその中で町人の噂話を静かに聞いていた。
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