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前王朝を滅ぼした戦いで、翠香の父と弟は革命軍側についていた。彼らはその最後の戦いで、陽動作戦のおとり部隊として出撃した。前皇帝は持てる戦力のほとんどでそれをつぶしにかかり、一方で革命軍の本隊は戦力が手薄になった都へ攻め入り前皇帝の首をはね飛ばした。革命は成されたものの、おとり部隊はほぼ全滅した。
これから翠香が嫁ぐ相手、つまり新皇帝が玉座にふんぞり返っていられるのは父や弟や彼らとともに戦い死んだ兵士たちのおかげだ。戦争に犠牲が付き物であることは理解しているが、いざ肉親がその立場となれば受け入れるのは難しい。
翠香は輿の前垂れをめくり上げ、外をのぞいた。明るい大通りには身なりのいい人々が行き交い、商店の前や荷車の荷台には品物があふれかえっている。道の先にはそびえ立つ山脈のような七曜城が見えた。
――この都の繁栄も、この平穏も、父さんたちのおかげだ。
翠香は誇らしい気持ちと悲しみを持って大通りを眺めた。すると、沿道に立つ子供と目が合った。質素ながら清潔な衣服をまとった少女だ。彼女は目を輝かせて翠香を見つめ、傍らの母親らしき女性を見上げた。
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