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「花嫁さん、きれい!」
「そうね。ああいう人を、傾国の美女っていうのよ」
「けーこく?」
「皇帝陛下が政を疎かにしてしまうほど、とっても素敵な女性ってこと」
翠香は恥ずかしくなって前垂れを下ろし、落ち着きなく座り直した。胸に手をあてると、首飾りが指に触れる。遊牧騎馬民族だった母が嫁入りの際に着けてきた装身具で、中央の大きな翡翠の飾りは取り外すと極小の小刀として使うことができる。
――浮かれている場合じゃない。私にはやるべきことがあるんだ。
ひんやりと冷たい、淡い緑色の石を翠香は指で撫でた。この小さな刃ではきっと大したことはできないだろう。だが、憎き皇帝の頸動脈を貫くことくらいはできるはずだ。
「まもなく七曜城に到着します」
輿の外から声をかけられ、翠香は平静を装って「はい」と返事をした。
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