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1.花嫁行列
「なあ、思文、もし君が皇帝になれたら、私の娘を側室にしてくれないか?」
都に攻め入る前夜、武具に身を包んだ初老の男が言った。野営地のはずれ、松明の明かりの届かぬ草原には降るような星々が輝いていた。
「おとりとして死地に赴くのは最年長の私が適任だ。だが、娘を残して逝くことになったらと思うと……。頼む、このとおりだ」
初老の男が冬草に片膝をついて頭を下げると、頼み込まれた若い男はうろたえて身をのけ反らせた。皇帝に反旗を翻した革命軍の総大将で、名を思文という。長い戦いに疲弊し、全身が戦塵や返り血で汚れているが、黒い瞳の奥に温かな光をたたえている。
「やめてくれ。死ぬと決まってるわけでもねえのに。救援部隊が到着するまで頑張ってくれればいいって説明しただろ」
思文は眉を曇らせ、初老の男の手を取って立たせる。明日の戦いで、思文は彼に陽動作戦の先陣を任せた。それはこの戦争の命運を分ける仕事で、最も信頼が厚い彼にしか頼めないことだ。
初老の男は顔を上げ、にやりと笑った。
「まあ、私もまだ死ぬ気はしていない」
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