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第5話 王様との謁見
城内には兵士が巡回していた。良い鎧だなあとあたしが見ているとぺこりと会釈してきた。コウと母親が挨拶を返す。どうやら勇者の家族は国では知られた存在のようだ。
いろいろと珍しい物がありそうな城の中だが、勝手に歩き回るわけにはいかないだろう。
あたしは神の代理で来た精霊ということになっているから頼めば言う事を聞いてくれるだろうが、その場合は身分を明かすことになってしまう。
騒ぎを起こして特別視されることはあたしの望みでは無いので今は勇者の行動を見届けることにした。
さすがに王様にペコペコ、城の人達にペコペコ、町の人達にペコペコなんてされた日にはあたしの立つ瀬が無いからね。
あたしは気まずくてもうこの国にはいられなくなってしまう。
大人しく目立たないようにひっそりとすることを意識して。あたしは二人に続いて城内の綺麗な絨毯の上を歩いて階段を昇り、謁見の間に入った。いよいよ王様との謁見だ。
騎士の守護する奥の玉座に立派な身なりをした王様が座っていた。煌めく王冠、立派なマント、神様よりも威厳と叡智が感じられると言ったら神様に失礼だよね。
部外者はおとなしくしていよう。黙って見守るあたし。コウと母親が前に進み出た。
王様が威厳を持った声でコウに向かって話しかけた。彼は厳しそうに見えたが、その瞳には親しい者と会った優しさがあった。
「よく来たな、コウ。ついに旅立つ時が来たのか」
「はい、魔王を倒しに行って参ります」
「そうか。予言の日が訪れたのじゃな」
そこで王様の目がチラリとこちらを見てきて、あたしは背筋を伸ばした。コウの目も釣られるようにこちらを見てきて、あたしは軽く小さく片手を振ってやった。
応援したつもりだったのだが、彼は黙って目線を王様の方に戻してしまった。もしかして緊張しているのだろうか。
ならば応援のオーラを送ってやらねばなるまい。あたしは両手をぎゅっと握りしめて応援のオーラを送ってやった。これは何も特別なスキルではない。みんなもするようにほんの真心を気持ちに込めて送っただけだ。あたしは自分の立場とは関係なくコウを応援していた。頑張れコウ。
王様が小声でコウと何か話している。そんな小さな声で話されるとこっちまで聞こえないんだけど。
神様から授かった能力で聴力強化のスキルを使えば聞こえただろうけど、内緒話を聞くことが悪い事ぐらいあたしは心得ている。どうしても聞きたいなら後でコウに訊ねればいいだろう。そう思うことにして、あたしはコウの背中を見守った。
あたしには聞こえていなかったが、彼らはこう話していた。読者の皆には教えてあげるね。
「あのお洒落で可愛い娘は誰じゃ? この国では見かけん顔じゃのう」
あたしは気づかなかったが、神様から与えられた服でお洒落さが上方補正されているあたし。現実世界ではされたことのないお洒落で可愛いとの評価を受けていた。
王様は国民全ての顔を覚えている。コウと一緒に来た見知らぬ少女が気になったのだ。勇者と違って特別な血は引いてない王様にはルミナの神々しさまでは感じられないようだ。普通の少女と思っている。
コウはルミナから自分が精霊だということは話すなと言われていたので、適当なところで話を誤魔化すことにした。
「彼女は別の国から来て、俺に旅立つように伝えてくれたのです」
「ほう、なるほどのう」
コウは何も嘘は言っていない。ルミナが神の国から来た精霊だということを黙っていただけだ。王様はさらに声を潜めてきて小声で突いてきた。
「別の国から来てお前を頼るとは、お前も隅に置けんの。この旅で勇者らしくかっこいいところを見せて、彼女のハートを鷲掴みにするんじゃぞ」
「彼女はそんなんじゃないですってば!」
今度のは大きい声だったのであたしにもよく聞こえた。彼女って誰だろう。気にしているとコウがこちらを振り返ってきた。
『あたし?』って感じで自分を指さしてみるが、コウは大きく首を横に振って王様の方に顔を戻してしまった。どうやら違うようだ。
王様が何やらにやついているような気がしたが、すぐに表情を引き締めて高らかに宣言した。
「では、旅立つお前に餞別を取らせよう!」
王様の合図で謁見の間に入ってきた兵士が宝箱を運んできてコウの傍に置いた。
「わあ、宝箱だあ」
初めてリアルに見る宝箱にあたしは目を煌めかせてしまう。こうして見ると大きいね。
コウは緊張の面持ちでその箱を開け、中にある物を取り出した。
<コウは棍棒と30ゴールドを手に入れた!>
横にいた楽器を持った兵士がわざわざファンファーレを鳴らしてくれた。
「まあ、期待は出来ないか」
こういう場面で渡される宝はしょぼい。
ゲームの知識で分かっていたことだが、あたしはやっぱり落胆の息を吐いてしまう。
まあ、いきなりドラゴンキラーや100万ゴールドとか入っていても勇者のためにならないだろうけどさ。
もうちょっと良い物をくれてもいいのにとは思うよね。
王様から渡された宝がこんなしけた物でもコウは嫌な顔一つ見せずに王様にお礼を言った。良い子だね、本当に。あたしは見ていてちょっと感動してしまった。
「ありがとうございます、王様。必ずや魔王を倒してきてご覧にいれます」
「うむ、世界の平和を任せたぞ。では、旅立つがよい!」
王様の宣言とともに高らかに鳴らされる旅立ちの音楽。兵士達が景気づけのように演奏してくれている。
ゲームだったらオープニングのスタッフロールが流れそうな場面だ。あたしはどこかから文字が現れたり、黒い画面が迫ってきたりしないかと周囲を伺っていたが、そんな物が現れそうな様子は無かった。
きょろきょろと四方八方を伺っていると、近づいてきたコウが話しかけてきた。
「じゃあ、行こうかルミナ。どうかした?」
「うーん、どこかからスタッフロールが流れてこないかと思って」
「スタッフロール??」
このゲームを作ったスタッフがいたら知りたいよね。きょとんとするコウ。そこであたしは我に返った。
「もちろん知ってるよ。これがゲームじゃなくて現実の世界だってことは」
「プッ、ルミナってたまに変なことを口走るよな」
「ガーーーン」
コウに変な奴呼ばわりされた。距離を近づけたいとはあたしから願ったことだけどこれは近すぎるよ。
あたしは居住まいを正して精霊としての威厳を持って発言することにした。
「では、行きますよ。冒険に行くからと言って気を抜かないように」
「おう」
景気の良い旅立ちの音楽を背にして、謁見の間を出ていく。
そうして、あたし達の冒険が始まった。
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