故郷に降る雪

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 雪と聞いて嫌悪感を抱くようになったのはいつからだろう。雪と聞いて昔みたいにはしゃがなくなったのはいつからだろう。それはきっと大人になったから変わったこと。大人になればしがらみが増える。しがらみが増えると無意識のうちに、自分の損得で物事を考えるようになる。そうして、今やらなければいけないことと、やりたいことを天秤にかけて、必然的に前者の選択をすることになる。変わったのは環境か、自分か。  田舎の両親から連絡が入り、俺はまだ年末まで日数があったのだけれど、急遽帰省することになった。普段はスマホに実家からの連絡が入っていても三回に一回は無視をしていた。しかし、今回は違った。仕事終わりに折り返しの電話をすると、ワンコールの音が消える前に母親の声が飛び込んできた。 「修司、父さん入院することなったよ」  母は俺が連絡無精であることを重々承知しているので、以前の連絡も無視していたことには特に触れずに話し始めた。 「なんで?」  昔から母は少々大げさなところがあるので、話半分で聞くようにしている。今回もどうせ大事はないのだろうと思っていた。しかし、今まで健康体で会社の健康診断でも精密検査を受けたこともなかった父がいきなり入院するということはやはり母にとっては大ごとだったのだろう。  ここ半年慢性的に続く偏頭痛のするこめかみを抑えながら答えた。 「なんでって。なんだっけ、難しいことは母さん分からないんだけど、最近頭痛いだとか、物忘れもひどくて。そんで病院行ったら、頭の中に血が溜まってるとか言われて」  母親はそう言って言葉を切った。それから、少し伺いを立てるように、 「修司、急で申し訳ないんだけど、こっち来れない?南にも連絡したんだけど、今職員さんの人数足りないみたいですぐには来れないって」 と言った。急に言われても、と思ったけれど考えてみれば最後に帰省したのが去年の年末だから、丸一年帰っていないことになる。今年も帰省は考えていなかった。仕事が立て込んでいるのは確かで、今日も残業だったし、更に明日も早く出社しようと思っていたところだった。いつも二つの選択で迷った時、俺は自分の損得や、やるべきことを優先することにしている。しかし、この時だけは切羽詰まった母の声を聞き、気づいたら「分かったよ」と返事をしていた。
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