故郷に降る雪

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 実家から最寄りのスーパーは、昔とほとんど変わっていないように思えた。父と母、それから地元に残った同級生を閉じ込めたまま、ここだけ時間が止まっているような感覚になった。しかし、久しぶりに来ると陳列はさすがに変わっていて、目当てのものを探し出すのに手間取っていると、声をかけられた。 「修司じゃん!」  同級生に会うことは覚悟していたものの、少し面倒だなと思いながら振り返るとそこにはウィンドブレーカーに長靴を履いた山田が立っていた。 「帰ってきたんか!都会人みたいな格好して!」  山田はそう言って俺の記憶のままの笑顔で笑って見せた。熊のような体型から何から中学生の頃のままだった。俺は「おう」とだけ返し、そのまま目当てのものを探し始める。 「修司、頭良かったもんな!頑張ってるんだな!俺はこっちで実家の畑の手伝いだよ!今日も使いっぱしりでさ」  山田はそう言ってそのまま俺についてくる。  山田とはそこまで仲は良かった記憶はないけれど、とにかくついてくる。ようやく会計を済ませ、店を出る頃には「もう少し話そうや!」という山田の声に引っ張られるように雪道を二人で歩いていた。実家で一人待っている母のことが気になりはしたけれど、短時間だったら支障ないだろう。 「修司、都会って楽しいか?」  山田はそう言って俺に話題を振ってくる。俺は楽しいとも楽しいとも答えなかった。最初はもしかしたら違ったかもしれないけれど、やるべきことがあるからそこにいるだけ、ただそれだけだった。それから、「さっきのレジの子サキちゃんだで。気づいてなかったべ」と急に訛ってみせた。雪が積もり、人に踏み固められ、その上に更に雪が降り、地面は滑りそうで、俺は転ばないように歩いた。山田は少しダサい長靴でなんでもないように歩いた。ここが自分の居場所だというように力強く歩いていた。 「雪って綺麗だよな。毎年見てもう飽き飽きするくらいなのにな。それでも雪が降ってるの見ると、ああ、やっぱり綺麗だなって思うんだわ。まあ、うち農家だから冬のうちは閑散期でっていうのもあるんだけどな」  山田はそう言って笑った。山田の頭には雪が乗っかっていて、頬は子どものように赤くなっていた。いつからか、嫌悪感しか抱かなくなりつつあった雪を見て、こういうのも悪くないのかもしれないと思った。煩わしいだけではないのだと思った。変わったのは自分か、環境か。その答えはきっとどこにもなくて、どちらが悪いということはない。 「それにほら、俺こんな立派な体型だから寒さには強いんだ」  山田は急に道端に座り、雪玉を作り始めた。 何をしているのだろうと思う間もなく、丸めた雪玉をぶつけられた。力加減はしていたのだろうが、流石に少しは痛かった。 「修司、そんなひょろくてどうすんだよ!男は力があってなんぼだろ!もっと食え!もっと堂々としてろ!」  山田はそう言って俺に雪玉を投げ続けてきた。 「山田も少しは痩せねえと彼女できねえぞ!」  そう言って、掴み投げた雪のかたまりは山田に届くことはなく途中で崩れ、まるで俺のようだと思った。
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