降り出した雨

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降り出した雨

駅前の居酒屋で夕食を済ませてしまってから、遠藤護郎は彼の住処であるところのアパートの一室までの帰路を酒に酔った赤ら顔で陽気に歩いている。 ふと彼の鼻先に水の跳ねる感覚があった。手のひらを空に向けてかざしてみると、どうやらぽつぽつ降り出してくるようだ。 ああ、しまった。今朝の天気予報を見て傘を持ってきていたはずだったのに、どうしてか傘がない。きっとあの居酒屋に置いてきてしまった。 そう思って、彼は今来た道を駅の方へ引き返し始めた。 駅までは、小走りで3、4分かかるだろうか。その前に本降りにならないといいが…。   雨は一度降り始めると早いもので、もう既に彼の髪の毛を湿らすほどになり始めた。それで彼はだんだん急足になった。雨がコンクリートに小さな水たまりを作りだしていたので、急足に水が跳ね返って、ローファーの中の靴下まで濡らし始めた。 ああ、くそ!とにかく早く、もっと降り出す前にあの居酒屋へ戻らないと!それに、あれはつい最近買ったもので、ただの傘にしては安くないものなんだ。誰かが持っていってしまったら大変だ。 顔を上げると雨が目の中へ入ってくるため、彼は少し伏し目がちになりながら走っていたが、ふと、視界の隅で前方から傘をさして歩いて来る男の存在を認めた。 おや…?
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