降り出した雨

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その男は、汚れた淡い緑色の作業服らしいものを着ていたが、手に持っている真っ黒い傘はなかなか上等なものに見える。遠藤はやや走る速度を落としてその男の様子を注意深く観察した。 あの男の持っている黒い傘…特に傘の骨が多いところと手持ちの部分に金色の装飾がしてあるところ…随分俺の傘に似ているんじゃないか…。 最初のうちはふとそんなことを思ったにすぎなかったのだが、その男との距離が近づいて、その傘の様子がよく見えてくるにつれて、段々疑念が強くなった。いや、いかにも怪しい、そう思い始めた。   やはりどうにもおかしい。どうしてあのいかにも金のなさそうな作業員風の男があんなに上等そうな傘を持っているものだろうか。いや待てよ…俺はあの男をどこかで見たことがある…。そうだ!あいつはさっき駅前の居酒屋にいたやつだ! 飲んでいる時には気にもとめなかったが、確かにいたはずだ。そうだとすれば…急に雨が降り出したものだから店先の傘立てにさしてあった俺の傘を勝手に持ち出したと考えられるんじゃないか…。 もうそこまで考えてしまうと、もはやその疑念はほとんど確信に変わってきて、遠藤は今にも自分とすれ違いそうなほど近づいているその男を待ち構えた。 まずは一体どういうわけか聞いてやろう。それで、何か狼狽える様子があったら間違いない。その場で傘を奪い取って警察につき出してやろう。
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