降り出した雨

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二人はしばらくもみ合っていたが、その男は遠藤よりもだいぶ小柄だったし、歳は二回りほども上だったために、結局男の方が地面に組み伏せらてしまった。男の手から傘をもぎ取ってみるとやはりその持ち手の金の装飾からして遠藤が居酒屋の傘立てに置き忘れた傘と同じものだった。 「おい!この傘はやっぱりあの居酒屋にあったものだろう!これは俺の傘だぞ!」 地面の上で悶えている男に向かってそう叫んだ。すると男は起き上がって何か悪態をつきながら元々向かっていた方向へ走り去って行った。 あの逃げ出した様子を見ると、やっぱり俺の傘を勝手に持ち出したに違いない。そうやって雨の中を走って帰るがいい…。   彼は傘を取り戻したことですっかり安心し、勝利の快感に束の間酔いしれていた。 しかし、再び家の方角へ少し歩き出してから、何か気がかりなことがあるのか、ふと立ち止まった。 そして何か考え事でもするように手で顎のあたりを撫でながらしばらく立ち尽くしていたが、やっぱりまた駅の方へ向かい始めたのだ。 彼はだんだん小走りになって、ついには靴の中が濡れるのも気にせず、走り出していた。どうしても確認しておかなければならないことがあった。
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