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彼の目当ては駅前の例の居酒屋の店先に据えられた傘立てであった。彼は店に着くと、すぐにその中を確認した。
持ち手の白いビニール傘が三本に、ベージュの女物の傘が一本、それに持ち手の黒いものも4本ほどささっていたが、いずれも彼のものではない。
持ち手のところに金色の装飾がしてあるものはひとつもなかった。
ほっと胸を撫で下ろした。
何も間違いはなかったのだ。ただの杞憂だった。やっぱり、傘は持ち去られていたのだ。
そしてその犯人がさっきのあの男だったのだ。
そう思って、踵を返して今度こそ帰ろうとしたその時、店のガラス戸がガラッと開いて店主がヌッと顔を覗かせた。
「ああ、遠藤さん。ちょうどよかった。」
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