降り出した雨

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もうすっかり酔いは醒めてしまっていた。走って来たことで速まっていた鼓動が、ここにきてより一層激しくドクドクと高鳴り出した。 傘がまだある…。まさか。しかし、確かに店主の言う通り店に預けていたのだからそれを別のやつに渡してしまうってことはないだろう。とすれば、きっとまだあるんだ。それじゃあ…俺が今持っている傘はどうして…。 「ほら、これをお探しになっていたんでしょう。」 再び扉から顔を覗かせた店主はそう言って、持ち手に例の金の装飾が施された傘を遠藤に差し出した。店主の手に握られていたのは彼の探し物に間違いなかった。 店主は遠藤が礼も言わず、何かに心を奪われてしまったようにただ呆然としているので、全く変なものだと思った。 遠藤は自分が今さしている方の傘の持ち手を、そこを握っている左手の親指で少し撫でてみた。 何か、どことなく、本来の自分の傘のそれとは触り心地が違っている気がする。
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