降り出した雨

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彼は「ちょっと、すみません」と言って、扉の方まで近づいていってその傘を店の明かりに照らしてみた。 金の装飾の形からして、どちらも同じ傘であることに間違いはないように思えた。しかし、彼が先程力づくで奪い取ってきた方はどことなく、少し古いもののように見えた。 彼はさらに扉の方へ近づいて、その傘をもっとよく観察してみた。 すると、もうほとんど消えかかってはいるが、白い文字で「久木」と見慣れない名前が傘の持ち手の部分にうっすらとあるのが読み取れた。 「どうかされましたか?」 店主に問われたが、遠藤はそれが聴こえていないのか何も言わずに抜け殻のようになって、どこか遠くの方を見つめていた。 暗闇の中にぼんやり照らされた彼の顔はもうすっかり真っ青だった。 もう土砂降りとも呼べるほどに一層強くなった雨が彼の頭上に掲げられた傘の上で激しい雨音を立てていた。
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