46.「……あぁ、終わったのね。……よかったわ」

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「……王妃様。ルーシャン殿下は……」  目を伏せてそう言えば、ディアドラは「……あの子に、責任はないと私は思っているわ」と首を横に振りながら言う。 「確かに、ブラックウェル公爵家の令嬢が暴走したのは、あの子が原因かもしれない。……だけど、そんなこと言い出したらキリがないのよ。……あの子は、小さなころから周囲を狂わせてきた」  小さな声でディアドラはそう言う。その目は何処となく懐かしむような色を宿しており、その目にドロシーの胸が微かに震える。 「……あの子は、周囲を狂わせないように引きこもり始めた面もあるのよ」 「そうなの、ですか」 「えぇ」  それは、ドロシーも知らないことだった。そう思い目をぱちぱちと瞬かせていれば、ディアドラは「責任は全面的にブラックウェル公爵家の令嬢にあるわ」と淡々とした声で告げる。その声に、先ほどまでの優しさは微塵も感じられない。 「自分の気持ちを制御できない人間は、聖女になんてなれない。私は、そう思う」  そんな言葉の最後に、ディアドラは「どうか、これからもルーシャンをよろしくね」と付け足し、部屋を出て行く。 (……ルーシャン殿下を、よろしく、か)  ディアドラが出て行った後、ドロシーはぼんやりとしていた。が、リリーの「お嬢様」と呼ぶ声に現実に戻り、ポーションの調合に移る。……兵士や騎士たちが無傷だとは考えにくい。ならば、ポーションは量があった方が良い。残ったのならば残ったで、また売りさばけばいいのだから。 (……けれど、何となく嫌な予感が……)  結界は張れた。なのに、どうして胸の中にとげが刺さったような感覚なのだろうか。小さなとげは大きくなり、嫌な予感をドロシーに与えてくる。……気のせいだ。気のせいだって――言いきれたら、いいのに。
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