44.「そんなもの、どうだっていいのよ」

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 エイリーンのその目を一瞥し、ドロシーはエイリーンから見て対面のソファーに腰を下ろす。その後、ダニエルに人払いの指示と彼自身も出て行ってほしいという趣旨を伝える。ダニエルは何処となく不満そうな面持ちではあったものの、ドロシーの意思を尊重してくれたらしく深々と礼をし「何かあれば、お呼びください」と言葉を残して部屋を出て行く。  ダニエルが出て行ったのを見つめ、ドロシーはエイリーンに向き合った。彼女のその揺れた青色の目には敵意など感じない。憎き恋敵を前にしても敵意を出さないのは、それ以上に大切なことがあるからだろうか。 「エイリーン様、どうぞお話しくださいませ」  余裕たっぷりにそう言えば、エイリーンは「……貴女が、悪いの」と今にも消え入りそうなほど小さな声を発する。その言葉に少し驚いたような表情を浮かべれば、エイリーンは「貴女が、貴女がっ!」と言いながらその場でぽろぽろと涙を零し始めてしまった。 「……私が悪いとは、どういうことですか?」  ゆっくりとそう問いかければ、エイリーンはキッとドロシーのことを強くにらみつけてくる。その目に怯むことなくドロシーが余裕たっぷりの表情を崩さずにいれば、エイリーンはどう思ったのだろうか。膝の上で手をぎゅっと握りしめ、「……ルーシャン殿下が、好きなのよ」と続けていた。 「わたくしはルーシャン殿下が好きなのよ」 「……さようでございますか」 「でも、ルーシャン殿下は妻がいるからの一点張りでわたくしのことを相手にしてくださらないわ」  忌々しいとばかりにドロシーをにらみつけ、エイリーンはそう語る。……どうやら、ルーシャンはドロシーをだしにしてエイリーンのアピールを断っていたらしい。何ともはた迷惑な話ではないか。  一瞬そう思ってしまうが、今はそんなことを考えている場合ではないと思いなおす。そのため、ドロシーは「そりゃあ、そうでしょうね」とにっこりと笑って告げる。
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