44.「そんなもの、どうだっていいのよ」

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「貴女、夢見がちなのね。一つだけ言っておいてあげるわ。互いにメリットがあるから結婚した。王侯貴族の結婚はそれで済んでしまうのよ」  ゆるゆると首を横に振ってそう告げる。  ドロシーはルーシャンと離縁するつもりではある。が、一度結婚したという事実がある以上、ハートフィールド侯爵家は王家にとって蔑ろには出来ない家となるのだ。実際、ネイピア王国内で権力を誇る侯爵家を王家が放っておくわけがない。 「……」  エイリーンが下唇をかみしめているのがわかる。でも、ドロシーにとってはそんなことどうでもいい。彼女のルーシャンを愛しているという言葉を延々と聞くつもりなどこれっぽっちもないし、ルーシャンを譲れという妄言に真剣に取り合うつもりはない。ドロシーがエイリーンと話をしている理由はたった一つ。 「さて、本題に参りましょうか」  にっこりと笑って、ドロシーはエイリーンをまっすぐに見据える。その紫色の目に宿った感情は、一体どんなものなのだろうか。少なくとも、エイリーンからは好意的には見えていないだろうな。 「――貴女、そんな妄言を言いに来たの? 違うでしょう?」  疑問形。だけど、しっかりとした確信を持った言葉。  そんな言葉でそう問いかければ、エイリーンの背筋が一瞬だけぶるりと震えた。もちろん、それを見逃すドロシーではない。 「……結界のこと、かしら?」  にっこりと笑ってそう問えば、エイリーンは少し視線を彷徨わせた後――静かに首を縦に振った。
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